塾生の声
答えのない時代にゆるぎない視座を求めて、大前研一の門を叩いた
次代のリーダーたちを紹介します。
プレジデント誌 2015年3月16日号、2018年3月19日号、2018年8月13日号の記事を掲載しております。
宮内 健=文 宇佐美 雅浩=撮影
BBT経営塾体験記
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がんが病気ではない世界をつくりたい
江原 昌慶
武田薬品工業
日本オンコロジー事業部 西日本統括
1967年生まれ。福岡大学薬学部卒業後、武田薬品工業に入社。2015年4月に新設された日本オンコロジー事業部の西日本エリア責任者。
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扱うテーマにライブ感があります
BBT経営塾ではオンラインで完結するカリキュラムに加え、任意参加によるリアルの場での勉強会や懇親会、合宿等のイベント開催も実施している。
昨年、開催された1泊2日の合宿では参加者が数人のグループに分かれ、各グループで1人がファシリテーターとなり、自身が所属する企業や組織を題材にミッション・ビジョン・バリューをチームで構築した。
武田薬品工業の日本オンコロジー事業部西日本統括を務める江原昌慶氏は、この研修でファシリテーターとなった一人である。なお、オンコロジーとはがん治療薬市場を指し、同事業部は国内でこの領域における臨床開発のサポートからマーケティング、販売まで統合的に扱うため4年前に新設された部門である。
「グループ内で議論しながら最終的に『日本オンコロジー事業部のミッション・ビジョン・バリューを経営者として提示する』のが合宿の課題でした。
要は仮想社長である私と仮想社員であるメンバーが、『組織が本当に目指さなければいけない姿はどういうものか』について、事前の情報提供も含め議論を重ね、まとめていったのです」
江原氏以外のメンバーはすべて医薬品業界以外の人たち。業界内では常識とされていることでも一から言語化する必要がある一方、業界内からは出てこない視点からの質問や指摘があって新鮮で、多くの発見があったという。
江原氏がBBT経営塾に入塾した動機は、事業部を運営するにあたり、経営的な視座から判断を行わなければならない場面が増えたためであった。
「RTOCSでバーチャル経営者となって物事を考えると、いやが上にも視座が高くなります。塾生同士がネット上のキャンパスで情報や意見を出し合い議論しながら自分のアウトプットをつくるので、いろいろな人の協力を得て意思決定をする訓練にもなっています。扱うテーマは現在進行形のものばかりなので、ほかのビジネススクールとはライブ感がまったく異なるのがBBT経営塾のよさだと思います」
前述した合宿におけるミッション・ビジョン・バリューづくりも視座を高め、他者の協力を得ながらアウトプットをつくる訓練であったと言えよう。
このとき構築した内容は以下の通りであった。バリューだけは「動かせない」
(江原氏)ということで武田薬品工業のものをそのまま使用している。
ミッション:We will make the world cancer is no longer disease.(がんがもはや病気ではない世界をつくる)
ビジョン:解決策のない一つでも多くのがん、必要とする一人でも多くの患者に薬剤を届け続ける。
バリュー:Patient Centricity(常に「患者さん中心」の考え方)
ミッションを「そんなことが本当にできるのか」というセンセーショナルな内容にあえてしたのが特徴だ。
「この変化の激しい時代、経営者はゼロから一を生み出すような、斬新なことを考えなければいけない時代に入っていると塾の学習で感じていたので、意識的に飛躍的な文言にしました。テクノロジーの動向を踏まえればきっとできるだろうと。その後、この内容を社内SNSに投稿したところ、かなり反響がありました。そこには共感の声も『そうは言っても……』という意見もありましたが、こうやって議論を重ねることで熟成され、組織文化づくりにつながっていくのだと思います」
塾での取り組みが業務で役立った形である。多くのイノベーティブな薬剤を必要とする患者さんにいち早く届けるために、BBT経営塾で学んだことを活かしたい。そう江原氏は熱く語った。
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日本では知れない世界の動向に視野が広がります
齋藤 雄一
日立パワーソリューションズ
電源インフラ事業統括本部 ガスエンジン設計グループ
1973年生まれ。石巻専修大学大学院修士課程を修了後、日立エンジニアリングサービス(現・日立パワーソリューションズ)入社。
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日本では知れない世界の動向に視野が広がります
「『今年は他流試合をしてもらいます』。会社からそう言われて入塾しました」
電力・エネルギー、社会インフラ分野で製品やサービス、ソリューションを提供している日立パワーソリューションズの齋藤雄一氏はそう笑う。
日立グループの一員である同社でガスエンジン発電設備の設計、プロジェクトマネジャーとして活躍する齋藤氏は一昨年、経営研修メンバーに選抜され、2年間のプログラムの初年度は戦略、財務、マーケティング等について座学とオンラインで学んだ。そして2年目の研修内容として突然、告げられたのが冒頭の言葉であった。齋藤氏は驚きつつ、他流試合とは何をするのかもよくわからないまま入塾した。
「入塾してすぐ痛感したのは自分が無知だということです。『現代の経営戦略』という科目でフィンテックやキャッシュレス化が取り上げられ、中国で劇的に普及が広がっているという話があったのですが、私はよく知りませんでした。さらに中国在住の塾生の方がリアルタイムの動向をコメントしてくださるので、自分が想像していなかったような社会ができつつあるのだとようやく理解しました」
自分の専門領域の情報収集はしているが、世の中の先端的な動向は見落としていたわけである。だが次代のビジネスを考えるにはそうした情報収集が不可欠であり、かつ異業種や海外在住の塾生から多角的な見方が示されるので、学習が面白くなってきた。
「同じ課題に取り組んでも置かれている環境が異なると出てくる提案もまったく異なります。自分では思いつかないようなことがかなりあり、視野を広げるのに役立っています。中国やインドと比べ日本がだいぶ立ち遅れた位置になりつつあるといった現実も、国内にいるとなかなかわかりませんよね」
このままでは日本の企業にとどまらず、日本社会全体が立ち遅れるのではないか。そういう危機感を持ったことが入塾前とは一番変化した点だという。
今後は、これまで従事してきたエンジニアリング分野とデジタル技術をつなげ新しいビジネスに活かし、新事業の立ち上げを視野に入れていきたいと齋藤氏は意気込んでいる。
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「リスクが高い」で終わらせない
中村 薫
パイオニア
経営管理本部知的財産法務グループ 法務部長
1974年生まれ。Lewis & Clark Law School卒業後、外資IT企業、法律事務所での勤務を経て2012年パイオニアに入社。19年7月より現職。
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専門職こそビジネス動向の把握が必要
米国の大学を卒業し日本で英会話講師を務めた後、再び米国のロースクールに留学して弁護士試験に合格。そして現在はパイオニアの法務部門に勤務し、この7月に部長に昇格した異色の経歴の持ち主が中村薫法務部長である。
「子供の頃から人助けをしたい、他人のサポートが好きという気持ちがあって、そのツールとして法律を学びました。これまで仕事量として多かったのは契約書の作成・審査のほか、M&Aや行政調査の担当。そして部門のマネジメントです」
中村部長がBBT経営塾に入塾したのは昨年、自社のグローバルリーダープログラムに選出され、そのカリキュラムに組み込まれていたからである。
BBT経営塾とは大前研一塾長がトップマネジメントのコンサルティングを行ってきた経験に基づき、経営者として必要な知識、能力を養成するために設計した経営者養成講座である。用意されているカリキュラムは5科目ある。
現代の企業経営者にとって最重要なテーマで構成される「現代の経営戦略」。
論理思考から構想力まで経営者としての本質的思考力を磨く「新しい能力を身につける」。毎週一人の実在する企業の経営者を取り上げ、自分がその人だったらどうするかを考える「Real Time Online Case Study(RTOCS)」。過去1週間のニュースから大前塾長がピックアップし、独自の視点で解説する「大前研一ライブ」。そして企業経営者自身による「経営者講義」。
講義はすべてインターネットを通じて配信され、ネット環境とデバイスがあればいつでもどこでも受講ができる。
ただし一方通行型のeラーニングとは異なり、講師からの直接指導や業種の異なる同期生との他流試合による議論を通じ、論理的に議論する力や視野を広げられるのが特徴である。
「最初に概要の説明を受けたときは、『ちょっと無理かな』と思いました。
課題の量と、他の業種から選抜された優秀な人たちも参加されるので、議論についていけるのかなと。講義がスタートすると、専門的な知識云々というより世の中で起こっている事象にどれだけ自分がアンテナを張っていなかったのかに気付かされました」
たとえば中国のシリコンバレー、深圳の急激な発展ぶり。一緒に受講している社内の同期生が興味を持って実際に現地へ足を運び、撮影してきた動画を見せてもらったことも刺激になった。
これまで専門職として法律に関する知識はアップデートしてきたが、最先端のビジネス動向を把握しておかなければ第一線に立つ現場のサポートを適切にできない。そう痛感したという。
学習は通勤時や昼食時に講義動画を視聴し、RTOCS等のアウトプットは週末にまとまった時間を確保して行っている。必修科目とは別に任意で実施される交流会や合宿研修にも、中村部長は積極的に参加している。
「合宿研修は数人でチームをつくり、リーダーの会社のビジョンとバリューを構築するという内容でした。私のチームのリーダーはまったく接点のない業界の方で、異業種の企業について学び、経営的視点で議論するという経験ができました。しかも他チームにおいて、パイオニアから参加した別の社員がリーダー役を務めていたことで、弊社のビジョンとバリューについて、そのチームの皆さんで考えてくれたんです。我々はそれを持ち帰って社内のメンバーでさらに議論を重ね、経営陣への提言につなげることができました」
この提言を受け取った経営陣は「参照します」とコメントしたという。 「この研修を通じて、たとえば新規ビジネスに関する相談を単に『法的リスクが高い』で終わらすのではなく、それを具現化するための法務戦略を一緒に考え立案するというような、企業経営をリーガルパーソンとしてサポートする、という新たな目標ができました」
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自動車業界の変革に立ち向かう
神代 泰
ネクスティ エレクトロニクス
オートモーティブ戦略部 部長
1975年生まれ。留学や会社勤務しながら大学卒業。転職を経て、2006年豊通エレクトロニクスに入社。17年に合併後、現在の社名となり、19年より現職。
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情報収集は一つの技術だと強く思いました
豊田通商グループのネクスティ エレクトロニクスはトーメンエレクトロニクスと豊通エレクトロニクスの2社が統合し、2017年に発足したエレクトロニクス商社である。メイン事業は半導体、エレクトロニクス製品の販売で主に海外メーカーの半導体を輸入し技術支援を行い、自動車や産業機械などのメーカーに販売している。
今年4月、戦略統括ユニットオートモーティブ戦略部部長に就任した神代泰氏は自身の業務についてこう説明する。 「ご存じの通り自動車業界が100年に一度の大変革期に直面しているなかで、コネクテッド、自動運転、カーシェアリング、電動化のいわゆるCASEの領域に特化した戦略を構築するのが我々の部のミッションです」
同社では毎年、経営幹部候補の教育の一環としてBBT経営塾に社員を送り込んでおり、神代部長もその一人として入塾した。
神代部長が入塾してすぐ「やってよかった」と感じたのがRTOCSである。テーマは、養蜂とミツバチ製品の製造、販売を手掛ける山田養蜂場の経営戦略についてであった。
「ハチミツ屋さんの経営なんて考えたこともないし、いろいろ調べても十分な情報を得られなかったので正直、大したことのない提案になりました。しかし大前塾長の模範解答はきちんと情報が調べられていて、情報収集は一つの技術なのだと強く思いました。ある程度ファクトを集めなければ戦略を構築しても絵に描いた餅でしかなく、構想力も生まれない。それが印象的でしたね」
環境分析を行い、戦略を構築する際に陥りがちな罠が「自分たちがやっていることに結び付けるために環境分析を行う」本末転倒な事態で、ビジネスパーソンはしっかりした情報収集に基づく環境分析と戦略構築の能力を磨く必要があると神代部長は力説する。
RTOCSは毎週テーマが出されるが、課題としては毎月1本提出すればよい。だが神代部長は自社の繁忙期を除き、毎月2〜3本提出した。
学習の仕方は毎朝の習慣であるウオーキング時に講義を聴き、週末は家を抜け出しカフェに数時間籠もり、あとは昼休みや出張時の移動時間などを活用した。
「忙しいと結局、自分の興味や仕事に関係することばかりに目が向きがちです。しかし入塾していろいろな講義や議論を見聞きしていると、直接関わりのない領域の話でも社会全体の大きな流れが見えてきて、『では我々はどうすべきか』という従来とは違った視点を持てるようになったのが、受講して一番ためになったことだと思います」
自社の事業についても、自動車を取り巻く環境変化が非常に大きい現在、いままで取り組んできたことにとらわれる必要はなく、むしろ新しい価値を生み出すことに注力すべきではないか。
そこで神代部長はプラットフォーム戦略をテーマに卒業論文を執筆した。
事業ドメインの中心であった自動車や今後伸びるIoT領域において、ハードウェア単品を販売する従来のビジネスモデルではなく、サービスやそこから得られるデータ活用までを考慮したプラットフォーム構築や、IoT領域のIPビジネス展開などといった、新しいビジネスモデルを創出し、会社の戦略としていきたいと神代部長は意気込んでいる
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「鉄道が赤字経営から脱するには」
坂井 克弥
大阪ガスビジネスクリエイト
用地事業部 マネジャー
1971年生まれ。91年同社入社。インハウス旅行部門を経て、土地資産の有効活用ビジネスの責任者として営業戦略・組織運営・新規事業の創出を担当。
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学んだ内容を月に1回自チームで共有
大阪ガスビジネスクリエイトは大阪ガスの用地管理業務からスタートし、現在は総務やオフィス業務などのシェアードサービスのほか、土地活用・施設管理・情報通信など幅広いサービスを展開している。
「エネルギーの自由化等、当社グループを取り巻く環境は、今後ますます変化していくと思います。当社はシェアードサービスを行いながら、同時に新しいビジネスをつくりグループ外向けの売上比率を上げていくことが課題で、私の部署は後者を担当しています」
事業開発本部用地事業部の坂井克弥マネジャーはそう説明する。
坂井マネジャーがBBT経営塾に入塾したのも、同社の次世代経営人材育成プログラムの一環としてであった。
「これまでに受講した経営プログラムとは異なり、幅広い業種から多様な経歴を持つ受講者同士が活発な議論を行うため『こういう見方もあるのか』と驚かされることがあり、自分の視野の狭さを感じました。また『新しい能力を身につける』という科目では、『情報収集力』や『議論する力』といった、必要だがあまり企業研修でやらないテーマを扱うので新鮮でした」
坂井マネジャーはとくに役立っている科目としてRTOCSを挙げる。
ある週のテーマは「過疎化が進む地域の鉄道会社が赤字経営から脱却するにはどうすればよいか」。自身が提出した解答は鉄道にとどまらない交通網のプラットフォームを構築し、最終的には地域のスマートシティ化を推進するというものであった。一方、大前塾長の解答は中国系ファンドの資本参加を受け、インバウンド需要を取り込むというもので、自分にはない発想から大いに刺激を受けているという。
「やっているうちに多方面への興味が刺激され、どんどん情報や知識を増やしていきたいという気持ちが強まりました。グループ内の仕事が多いため意識的に視野を広げ、多様な見方をすることが新しいビジネスの創出には欠かせないと思います」
坂井マネジャーはいま、塾で学んだ内容を自チームで月に1回設けているミーティングで共有している。学びをアウトプットすることで自身の成長と部下の知識水準の向上が目的で、回を重ねるうちに「積極的に質問や議論が出てくるようになり、新しいことに挑戦する雰囲気ができてきた」と、坂井マネジャーは手応えを感じている。
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海外現地社員をどう育成するか
南條 浩史
大塚化学
経営企画部 大塚ケミカルアメリカ取締役
89年同社入社、日中米での工場建設、立ち上げを経験後、アメリカ現地法人設立に携わり、現職。
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会社や自分に危機感を持ちました
米国ジョージア州グリフィン市に大塚ホールディングス傘下の化学品メーカー、大塚化学の工場が竣工されたのは2015年のことである。
「この工場では自動車用ブレーキパッドの素材『テラセス』の製造のほか、大塚化学の北米・南米統括拠点としての役割を担っています」
現地法人である大塚ケミカルアメリカの南條浩史取締役はそう説明する。南條氏は同社初となる米国工場の立ち上げを担当し、立地の選定から現法設立、工場の設計・建設を行い、現在は同社の生産担当役員となっている。
そんな南條氏がBBT経営塾に入塾したのは、会社からの推薦による。
BBT経営塾は大前研一塾長が監修する、経営者として必要な知識と能力を養成するオンライン講座である。現代の企業経営者にとって最重要なテーマで構成される「現代の経営戦略」、経営者としての本質的思考力を磨く「新しい能力を身につける」、毎週1人、企業の経営者を取り上げ、自分がその人ならどうするかを考える「Real Time Online Case Study (RTOCS)」という3つの必須科目と、過去1週間のニュースの中から大前塾長が独自の視点で解説する「大前研一ライブ」、企業経営者による「経営者講義」でカリキュラムは構成されている。
受講期間は1年間。講義はすべてネット上で行われ、インターネット環境と端末があればいつでもどこでも受講できる。また、多様な業界から参加する塾生同士の議論が奨励され、一方通行型のeラーニングとは一線を画す。
米国在住の南條氏は終業後、帰宅してから毎日1時間を学習にあてている。「実際に受講を始めてみると、だんだん自分の強み弱みが見えてきました。自分の強みは右脳思考である一方、現代のITを使った経営戦略やデジタル周りの知識が足りないとわかりました。何より学ぶことで『自社のITの活用が遅れている』『自分は経営スキルが足りない』などと、会社や自分に危機感を持つようになったのが収穫です」
南條氏は日本と中国、米国で工場の設計・建設を行った経験を持つ工場立ち上げのプロフェッショナルであるが、ITの劇的な発達で登場した新たなビジネスや経営手法の動向には疎かった。だが、そうした手法を取り入れなければBtoBメーカーといえども時代に取り残されるかもしれない。また、企業経営は今回が初めての経験で、人事や経理などの知識が不足していた。
南條氏は講義で最新の知識を獲得するだけでなく、それを実際の業務に役立てている。たとえば人事のクラウド管理システムの導入。人材の流動性が高い米国では、人事マネジャーですらすぐ退職する可能性がある。だが、クラウドに情報を一元化しておけば、誰が辞めてもまったく困らずに済む。
社員教育においても、講義で学んだファシリテーションや問題解決の手法を活用している。
「現地採用した社員は化学工場の経験がなく、最初は問題があってもそれが問題と認識できませんでした。私が指示して問題解決すれば話は早いのですが、それでは現地社員が成長できません。BBT経営塾で学んだ質問する力、議論する力をフルに活用して、みんなに発生した事象の収集とその原因を一つひとつ議論してもらい、問題の本質を突き止め解決するプロセスを回しています」
いま南條氏は米国法人の新たなウェブサイトの構築に取り組んでいる。サイバー空間で、いかに顧客の課題に応えることができるか、自社の製品が顧客にどのような価値を提供できるのかを一つのストーリーとして意識し、デザインを考えているという。「BBT経営塾で学ばなければ、これらを強く意識できなかったと思います。米国ではITを使ったソリューションが日本よりはるかに進んでいます。米国法人ではそれらを実践し、その結果を発信して『もっとこういうことをやらなければいけない』と伝えなければと思っているんです。最初は『またか』と思われましたが(笑)、最近はだんだん理解されるようになっています」
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ヨーロッパ市場を攻略せよ
谷藤 道久
Mitsubishi Tanabe
Pharma Europe Ltd. 社長
東京大学薬学系研究課修士課程卒業後、田辺三菱製薬に入社。
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15年間研究に従事。秘書 、総務などを経て現職。 -
素早く答えを出す重要性を学びました
谷藤道久氏は今年4月に田辺三菱製薬の欧州連結子会社、ミツビシタナベファーマヨーロッパリミテッドの社長に就任し、現在はロンドンを拠点に各国での新薬の承認取得とその後の販売戦略立案に取り組んでいる。
もともと谷藤氏は研究職に15年間従事した後、経営戦略や秘書、渉外、総務などの業務を歴任してきた。「一口にヨーロッパといっても一つの国ではないので規制当局の対応も商習慣も違い、国ごとの対応が必要になります。このオペレーションが非常に複雑で、気を使うところです」
谷藤氏がBBT経営塾に入塾したのは現職に就任する前の昨年10月。同社経営者育成プログラムの一つがBBT経営塾だった。受講中に居住地が日本から海外へ移ったが、学習をするうえで違いはないという。
学習に費やすのは平日1時間半。加えて週末に集中して課題に取り組む。
「『現代の経営戦略』で取り上げられるテーマは、AIやIoTといったテクノロジーの進歩に基づく新しい手法や考え方から人材戦略に至るまで幅広く、個人で網羅的に勉強するには限界があり、講義を理解したうえで異業種の塾生と議論することは非常に刺激になります」
製薬業界のビジネスモデルは研究、開発、製造、販売のバリューチェーンを自社内に持つ垂直統合型という特徴がある。異業種とのコラボレーションの機会が少なく、他の業界で何が起こっているかがわかりにくい面がある。
ところが異業種の塾生と議論を行うと、それぞれの世界では当たり前の概念や技術が他の業界においてはあまり知られていなかったり、課題に対する考え方や戦略、戦術が異なっていたりすることに自ずと気付かされるという。
もう一つ学んだのが「素早く答えを出す重要性」である。
「どうしても完璧な正解を探したくなりがちですが、変化が激しく価値観が多様化している中では、その時点で出せる答えを素早く見つけることが重要で、絶対解を求めるとむしろスピード感を失う。これがBBT経営塾に入塾してから一番変わった点で、限られた1週間の時間軸で適切に情報を集め、判断し一定以上の水準の結論を出すRTOCSはよい訓練になっています」
今後は現在のミッションであるヨーロッパ市場での販売戦略立案において、従来の伝統的な製薬業界の考え方とは別に他業界の戦略や戦術を組み込んで、医薬品だけで終わらないヘルスケアソリューションを提供していきたいと谷藤氏は意気込んでいる
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「別部門の事業をどうするか述べよ」
山本 夏樹
コニカミノルタ パイオニア
OLED 営業部 マネージャー
東京大学大学院工学系研究科修了後、2006年に同社入社。
インタビュー記事を読む
生産技術開発、海外技術営業を経て、現職。 -
塾生間の議論をリードしようと決めました
17年6月、コニカミノルタとパイオニアは有機EL照明事業の合弁会社コニカミノルタ パイオニアOLEDを設立した。
「いま照明で普及しているLEDは点で光るのに対し、有機EL(OLED)は面で均一に光ります。しかも薄く軽いフィルム状なので、曲げた状態や非常に狭い空間で光らせることができ、『こんなことはできないか』という引き合いを多数いただいています」
同社営業部の山本夏樹マネージャーは、この有機EL照明の新規用途開発を顧客企業とともに行っている。
コニカミノルタ出身の山本氏がBBT経営塾に入塾したきっかけは、管理職任用に伴う役員面接であった。「所属部門とは別部門の事業について、その課題と自分ならどうするかを述べよ」という役員の質問に対し、山本氏は答えを出せず3分間沈黙してしまった。
「その後のフォローアップでも『視野が狭い』と一言で切り捨てられ、自分は担当事業だけのタコつぼに入っていたと大いに反省したんです。そのタイミングで人事から入塾の誘いがあったので、ぜひやらせてくださいと」
ただし課題意識を持って入塾したものの、最初の2カ月はネットを通じた議論に入り込めず、あまり身の入らない状態が続いたという。それが大きく変わったのは「RTOCSで提出した課題が大前塾長の解説と比べ、あまりにお粗末だと気付いた」からである。
そのとき与えられた課題は「スペースワールド閉園にあたり、自分が北九州市長だったらどう市政を舵取りするか提案せよ」であった。
福岡県出身の山本氏は手持ちの情報だけで提案を作成したが、いざ大前塾長の解説を受講すると「クルーズ船で博多港に来ているインバウンド客は日本で一番多い」「その流入経路と北九州市のリソースを使えばこんなことができる」と地元が近い自分が全く知らなかった情報に基づいて、幅広い視点でプランを作成していた。
「これは本腰を入れて取り組まなければダメだと猛省し、やるからには毎週RTOCSに取り組み、塾生間の議論をリードしようと決めました。日曜日に課題が出されるのでその瞬間からファクトを調べ、週の前半で『3C分析するとこんなことが言えますね』などと議論のフレームワークをつくり、週の後半から『これらの要素を組み合わせると実はこういうプランが考えられるのでは』と議論を展開させるようにしました。するとノリのよい塾生の方たちが『こんな視点もある』とどんどん乗ってきてくれて、議論が非常に盛り上がるようになったんです」
異なる立場の塾生たちと毎週異なる課題について議論を行った経験はそのまま現在の業務に活かされており、顧客や社内の他部門など多様な視点を常に持てるようになったと山本氏は語る。
「BBT経営塾で学んだことを現在の仕事に活かすのは当然として、コニカミノルタには印刷事業からヘルスケア、我々の機能性材料まで実に多様な事業がありますから、将来はそれぞれの事業を深く把握し、『これらを組み合わせるとこんな新規事業ができる』と提案し続けたいと考えています」
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答えがない問題にどう答えを出すか
相田 智志
中外製薬
科学技術情報部 グループマネージャー
東京大学大学院薬学系研究科修了後、同社入社。
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がん領域創薬研究に14年間従事し、現職。 -
最先端のビジネスモデルを事業に取り込みたい
抗体医薬品とがん領域で国内のリーダーである中外製薬。同社の相田智志科学技術情報部グループマネジャーは入社以来、がん領域の創薬研究に14年間従事した後、新設された現在の部署へ昨年7月に異動した。
「いま、ヘルスケア業界では再生医療や遺伝子治療、あるいはヘルステックというITを駆使した新しいサービスの提供などのイノベーションが生まれており、そうした外部で起こっているイノベーションの評価や自社への取り込みに関する仕事をしています」
相田氏がBBT経営塾に入塾したのは、人事部からの誘いがきっかけであった。
BBT経営塾は大前研一塾長の経験に基づき、経営者として必要な知識、能力を養成するために設計されたビジネスリーダー養成プログラムである。
カリキュラムは企業経営者にとって最重要なテーマで構成される「現代の経営戦略」、経営者としての本質的な思考力を磨く「新しい能力を身につける」、実在する経営者を取り上げて「あなたがその人だったらどうするか」を考えるケーススタディー「Real Time Online Case Study(RTOCS)」などから構成されている。
講義や議論はインターネット上で行われ、ネット環境とPCやタブレット、スマホがあれば世界のどこでも受講できるのが特徴だ。加えて交流会や集合研修、セミナーが実施され、リアルで交流する機会も設けられている。
「私はもともと患者さんに薬を届けるバリューチェーン全体に興味があり、いずれ研究以外の仕事をしたいと思っていました。ただ研究をしていると専門性が非常に深くなる分、視野が狭くなるのが問題で、BBT経営塾で視野を広げたいと思い受講を決めました」
受講を開始してすぐ、相田氏はデジタル・ディスラプション(デジタル技術による破壊的イノベーション)の講義で衝撃を受けた。「自分も使っている便利なサービスの裏側で、そんなエコシステムが成立しているのか」と。
もう一つ、相田氏が衝撃を受けたのが、幅広い業種からエグゼクティブ層が受講している点であった。「普段、仕事で直に話せないような立場の人たちと一緒に学べるのか」と感じた。
業務の繁忙時期が一定ではない相田氏は、学習時間を1日単位ではなく1カ月単位でやり繰りしている。忙しい時期は仕事に集中し、そうでない時期に学習に取り組むスタイルである。
「BBT経営塾の学習で面白いと感じているのは、いま起こっている現象について、断片的に入ってくる知識をリアルタイムで体系化してくれるところです。学問の世界の体系化は時間的にだいぶ後になってからなされますが、ここでは時差がありません。しかもオンラインのディスカッションを通じ様々な立場の受講生から受け止め方が提示されるので、同じ講義を受けても見方や考え方の多様性が生まれてきます」
せっかくの学びの機会を活かすには、無駄な時間をあぶりだして時間を有効活用する必要がある。また、研究では自分の疑問に対して仮説を立てて実験を行い検証結果を得ていたが、BBT経営塾での学習、たとえばRTOCSでは将来の動向について仮説を立て情報収集して調べるところまでは同様でも、正解が出るのはずっと後になる。それでも自分としてきちんと考え、方向性を打ち出さねばならない。そうした答えが見えない問題を考察するトレーニングとして非常に役立っているという。
「製薬会社を取り巻く環境はどんどん変化し、今後は製薬業界以外のパートナーとも協働して新しいビジネスをつくり、患者さんや消費者に新しい価値を提供していく必要があります。入塾前は製薬会社のバリューチェーンを考えられるまで視野が広がればいいと考えていましたが、社会環境やテクノロジーの変化、最先端のビジネスモデルに接することができたので、それらをいかに事業に取り込み、活かしていけるかを考えているところです」
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海外メーカーとの競争に勝つ方法
北井 明洋
ユヤマ
国際部 部長
神戸大学卒業後、2000年松下電器産業(現パナソニック)入社。
インタビュー記事を読む
国内法人営業、海外マーケティングを経て、13年同社入社。 -
経営判断には閃きが必要だと感じています
「月の半分は海外出張です。今月はアメリカと中国、オーストラリアへ行って、来週からはヨーロッパ。日本にいるのは今週だけですね」
病院、薬局向け調剤機器や調剤業務支援システムの製造、販売で国内トップシェアのユヤマの北井明洋国際部部長はそう語る。
新卒で松下電器産業(現パナソニック)に入社し、スペイン駐在や海外マーケティング業務を担当していた北井部長がユヤマに転職したのは2013年のこと。以来、海外営業の責任者として世界を飛び回る日々を送っている。
北井部長は以前からBBT経営塾の運営元であるAoba-BBTが運営する各種プログラムを受講していた。これまで受講したのは個別のスキルアップを目指すものが多かったが、経営視点を身につけたいとの思いからBBT経営塾への入塾を決めた。
「入塾の際に決めたのが、RTOCSを毎週必ずやることです。課題は毎週出され、アウトプットは最低月1回でいいのですが、毎週すべてやり切ろうと。現在の立場になって思うのは、組織が確立されている国内事業と海外事業ではまったく環境が異なり、大前塾長がよく言われる『答えのないところに答えを出さなければいけない』。その自主練習としてRTOCSを行い、構想力を磨きたいと考えました」
海外は国内と違い、得られる情報は限られ、調剤に対する文化は国ごとに異なる。競合する海外メーカーは対応スピードが速い。シビアな競争環境でどう適切な判断を下し、行動していくか。その能力を磨く必要があった。
主な学習時間は海外出張の飛行機のなか、およびホテルである。多忙な日々のなかでも毎週、RTOCSの課題を提出している。
「RTOCSを毎週やるのはしんどいですが、勉強になります。過去の課題を分析し打ち手をパターン化できないかと考えたこともあるんですが、大前塾長の回答を見ると『なるほど……』という気付きが毎回あって、なかなかパターン化は難しい。やはり経営判断は『このパターンならこうだ』というロジックではなく右脳的な閃きや構想力が必要だと痛感していて、それがBBT経営塾での一番の学びです」
塾生同士でのディスカッションから気付くことも多い。業務で悩んでいるテーマを投稿すると、様々な業界の視点からヒントをもらうこともある。
何より受講しての収穫は、継続的な学習習慣がついたこと。そして自社のビジネスにとどまらず、世界の最先端の動向に敏感になったことである。
「すぐビジネスに直結しなくても世界の動向を知り自社の立ち位置を理解することは、中長期的な方向性を決定するのに重要です。世界のトレンドを理解し、それを全社にどう伝え、よい影響を与えられるかがこれからの課題で、営業としてメーカーの根幹である研究開発や製造部門と協力しながら、私が学んだことを活かしていきたい」