塾生の声
答えのない時代にゆるぎない視座を求めて、大前研一の門を叩いた
次代のリーダーたちを紹介します。
プレジデント誌 2015年3月16日号、2018年3月19日号、2018年8月13日号の記事を掲載しております。
宮内 健=文 宇佐美 雅浩=撮影
BBT経営塾体験記
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「別部門の事業をどうするか述べよ」
山本 夏樹
コニカミノルタ パイオニア
OLED 営業部 マネージャー
東京大学大学院工学系研究科修了後、2006年に同社入社。
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生産技術開発、海外技術営業を経て、現職。 -
塾生間の議論をリードしようと決めました
17年6月、コニカミノルタとパイオニアは有機EL照明事業の合弁会社コニカミノルタ パイオニアOLEDを設立した。
「いま照明で普及しているLEDは点で光るのに対し、有機EL(OLED)は面で均一に光ります。しかも薄く軽いフィルム状なので、曲げた状態や非常に狭い空間で光らせることができ、『こんなことはできないか』という引き合いを多数いただいています」
同社営業部の山本夏樹マネージャーは、この有機EL照明の新規用途開発を顧客企業とともに行っている。
コニカミノルタ出身の山本氏がBBT経営塾に入塾したきっかけは、管理職任用に伴う役員面接であった。「所属部門とは別部門の事業について、その課題と自分ならどうするかを述べよ」という役員の質問に対し、山本氏は答えを出せず3分間沈黙してしまった。
「その後のフォローアップでも『視野が狭い』と一言で切り捨てられ、自分は担当事業だけのタコつぼに入っていたと大いに反省したんです。そのタイミングで人事から入塾の誘いがあったので、ぜひやらせてくださいと」
ただし課題意識を持って入塾したものの、最初の2カ月はネットを通じた議論に入り込めず、あまり身の入らない状態が続いたという。それが大きく変わったのは「RTOCSで提出した課題が大前塾長の解説と比べ、あまりにお粗末だと気付いた」からである。
そのとき与えられた課題は「スペースワールド閉園にあたり、自分が北九州市長だったらどう市政を舵取りするか提案せよ」であった。
福岡県出身の山本氏は手持ちの情報だけで提案を作成したが、いざ大前塾長の解説を受講すると「クルーズ船で博多港に来ているインバウンド客は日本で一番多い」「その流入経路と北九州市のリソースを使えばこんなことができる」と地元が近い自分が全く知らなかった情報に基づいて、幅広い視点でプランを作成していた。
「これは本腰を入れて取り組まなければダメだと猛省し、やるからには毎週RTOCSに取り組み、塾生間の議論をリードしようと決めました。日曜日に課題が出されるのでその瞬間からファクトを調べ、週の前半で『3C分析するとこんなことが言えますね』などと議論のフレームワークをつくり、週の後半から『これらの要素を組み合わせると実はこういうプランが考えられるのでは』と議論を展開させるようにしました。するとノリのよい塾生の方たちが『こんな視点もある』とどんどん乗ってきてくれて、議論が非常に盛り上がるようになったんです」
異なる立場の塾生たちと毎週異なる課題について議論を行った経験はそのまま現在の業務に活かされており、顧客や社内の他部門など多様な視点を常に持てるようになったと山本氏は語る。
「BBT経営塾で学んだことを現在の仕事に活かすのは当然として、コニカミノルタには印刷事業からヘルスケア、我々の機能性材料まで実に多様な事業がありますから、将来はそれぞれの事業を深く把握し、『これらを組み合わせるとこんな新規事業ができる』と提案し続けたいと考えています」
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答えがない問題にどう答えを出すか
相田 智志
中外製薬
科学技術情報部 グループマネージャー
東京大学大学院薬学系研究科修了後、同社入社。
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がん領域創薬研究に14年間従事し、現職。 -
最先端のビジネスモデルを事業に取り込みたい
抗体医薬品とがん領域で国内のリーダーである中外製薬。同社の相田智志科学技術情報部グループマネジャーは入社以来、がん領域の創薬研究に14年間従事した後、新設された現在の部署へ昨年7月に異動した。
「いま、ヘルスケア業界では再生医療や遺伝子治療、あるいはヘルステックというITを駆使した新しいサービスの提供などのイノベーションが生まれており、そうした外部で起こっているイノベーションの評価や自社への取り込みに関する仕事をしています」
相田氏がBBT経営塾に入塾したのは、人事部からの誘いがきっかけであった。
BBT経営塾は大前研一塾長の経験に基づき、経営者として必要な知識、能力を養成するために設計されたビジネスリーダー養成プログラムである。
カリキュラムは企業経営者にとって最重要なテーマで構成される「現代の経営戦略」、経営者としての本質的な思考力を磨く「新しい能力を身につける」、実在する経営者を取り上げて「あなたがその人だったらどうするか」を考えるケーススタディー「Real Time Online Case Study(RTOCS)」などから構成されている。
講義や議論はインターネット上で行われ、ネット環境とPCやタブレット、スマホがあれば世界のどこでも受講できるのが特徴だ。加えて交流会や集合研修、セミナーが実施され、リアルで交流する機会も設けられている。
「私はもともと患者さんに薬を届けるバリューチェーン全体に興味があり、いずれ研究以外の仕事をしたいと思っていました。ただ研究をしていると専門性が非常に深くなる分、視野が狭くなるのが問題で、BBT経営塾で視野を広げたいと思い受講を決めました」
受講を開始してすぐ、相田氏はデジタル・ディスラプション(デジタル技術による破壊的イノベーション)の講義で衝撃を受けた。「自分も使っている便利なサービスの裏側で、そんなエコシステムが成立しているのか」と。
もう一つ、相田氏が衝撃を受けたのが、幅広い業種からエグゼクティブ層が受講している点であった。「普段、仕事で直に話せないような立場の人たちと一緒に学べるのか」と感じた。
業務の繁忙時期が一定ではない相田氏は、学習時間を1日単位ではなく1カ月単位でやり繰りしている。忙しい時期は仕事に集中し、そうでない時期に学習に取り組むスタイルである。
「BBT経営塾の学習で面白いと感じているのは、いま起こっている現象について、断片的に入ってくる知識をリアルタイムで体系化してくれるところです。学問の世界の体系化は時間的にだいぶ後になってからなされますが、ここでは時差がありません。しかもオンラインのディスカッションを通じ様々な立場の受講生から受け止め方が提示されるので、同じ講義を受けても見方や考え方の多様性が生まれてきます」
せっかくの学びの機会を活かすには、無駄な時間をあぶりだして時間を有効活用する必要がある。また、研究では自分の疑問に対して仮説を立てて実験を行い検証結果を得ていたが、BBT経営塾での学習、たとえばRTOCSでは将来の動向について仮説を立て情報収集して調べるところまでは同様でも、正解が出るのはずっと後になる。それでも自分としてきちんと考え、方向性を打ち出さねばならない。そうした答えが見えない問題を考察するトレーニングとして非常に役立っているという。
「製薬会社を取り巻く環境はどんどん変化し、今後は製薬業界以外のパートナーとも協働して新しいビジネスをつくり、患者さんや消費者に新しい価値を提供していく必要があります。入塾前は製薬会社のバリューチェーンを考えられるまで視野が広がればいいと考えていましたが、社会環境やテクノロジーの変化、最先端のビジネスモデルに接することができたので、それらをいかに事業に取り込み、活かしていけるかを考えているところです」
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海外メーカーとの競争に勝つ方法
北井 明洋
ユヤマ
国際部 部長
神戸大学卒業後、2000年松下電器産業(現パナソニック)入社。
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国内法人営業、海外マーケティングを経て、13年同社入社。 -
経営判断には閃きが必要だと感じています
「月の半分は海外出張です。今月はアメリカと中国、オーストラリアへ行って、来週からはヨーロッパ。日本にいるのは今週だけですね」
病院、薬局向け調剤機器や調剤業務支援システムの製造、販売で国内トップシェアのユヤマの北井明洋国際部部長はそう語る。
新卒で松下電器産業(現パナソニック)に入社し、スペイン駐在や海外マーケティング業務を担当していた北井部長がユヤマに転職したのは2013年のこと。以来、海外営業の責任者として世界を飛び回る日々を送っている。
北井部長は以前からBBT経営塾の運営元であるAoba-BBTが運営する各種プログラムを受講していた。これまで受講したのは個別のスキルアップを目指すものが多かったが、経営視点を身につけたいとの思いからBBT経営塾への入塾を決めた。
「入塾の際に決めたのが、RTOCSを毎週必ずやることです。課題は毎週出され、アウトプットは最低月1回でいいのですが、毎週すべてやり切ろうと。現在の立場になって思うのは、組織が確立されている国内事業と海外事業ではまったく環境が異なり、大前塾長がよく言われる『答えのないところに答えを出さなければいけない』。その自主練習としてRTOCSを行い、構想力を磨きたいと考えました」
海外は国内と違い、得られる情報は限られ、調剤に対する文化は国ごとに異なる。競合する海外メーカーは対応スピードが速い。シビアな競争環境でどう適切な判断を下し、行動していくか。その能力を磨く必要があった。
主な学習時間は海外出張の飛行機のなか、およびホテルである。多忙な日々のなかでも毎週、RTOCSの課題を提出している。
「RTOCSを毎週やるのはしんどいですが、勉強になります。過去の課題を分析し打ち手をパターン化できないかと考えたこともあるんですが、大前塾長の回答を見ると『なるほど……』という気付きが毎回あって、なかなかパターン化は難しい。やはり経営判断は『このパターンならこうだ』というロジックではなく右脳的な閃きや構想力が必要だと痛感していて、それがBBT経営塾での一番の学びです」
塾生同士でのディスカッションから気付くことも多い。業務で悩んでいるテーマを投稿すると、様々な業界の視点からヒントをもらうこともある。
何より受講しての収穫は、継続的な学習習慣がついたこと。そして自社のビジネスにとどまらず、世界の最先端の動向に敏感になったことである。
「すぐビジネスに直結しなくても世界の動向を知り自社の立ち位置を理解することは、中長期的な方向性を決定するのに重要です。世界のトレンドを理解し、それを全社にどう伝え、よい影響を与えられるかがこれからの課題で、営業としてメーカーの根幹である研究開発や製造部門と協力しながら、私が学んだことを活かしていきたい」
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ゴルフ業界を盛り上げるには
稲葉 瞳
ギークス
Gridge編集部
慶應義塾大学卒業後、メーカーに入社するもプロゴルファーを夢見て渡米。
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各種ツアーに参戦するなどの活動を経て、2017年に帰国後、同社入社。 -
議論が深まる楽しさがあります
ギークスが運営するゴルフ情報サイトGridge(グリッジ)編集部の稲葉瞳氏は7歳からゴルフを始め、大学で体育会ゴルフ部の主将を務めた経歴の持ち主だ。新卒時に一度就職したがゴルフへの思いが再燃し、1年半で退職して渡米。ティーチングプロの資格を取得したりミニツアーに出場したり、4年ほどゴルフ修業の日々を送った。
稲葉氏がBBT経営塾に入塾したのは、ビザの関係で帰国した時期である。「母が経営者、祖父は税理士、親戚には会社員がいないという家庭でずっと『鶏口となるも牛後となるなかれ』と育てられてきました。いずれ何かビジネスをしたいという気持ちがあったのですが、自分には知識もノウハウもない。そんななかでBBT経営塾のことを知り、少しでも知識と勇気を得られたらと思いました」
BBT経営塾を選択したのは、アメリカに戻る可能性も考えてのことだった。オンラインによる受講形態なら、海外からでも中断することなく学習を続けることができる。
最初の講義ですぐ、稲葉氏は圧倒された。情報収集力に関する講義で「いままで大雑把に捉えていた情報収集についてターゲットを決め、どんな資料を集め、どう分析すればよいかが体系的、詳細に説明されていた」からである。著名な経営者自身が語る経営者講義や、それまであまり関心のなかったロボティクスやIoTの最新動向にも強い刺激を受けた。
管理職や経営幹部が多い塾生のなかで、ビジネス経験の短い稲葉氏が入って議論する難しさはなかったろうか。
「皆さん他人の意見を尊重して聞いたうえで『自分はこう思う』と意見を返されるので、議論が深まる楽しさがあります。当初は恐る恐る発言しているところもあったのですが、皆さんから『もっと自信をもっていいんだよ』と言われたのがとてもありがたかったです」
稲葉氏は入塾後、ゴルフでのつながりから声がかかり、昨年10月にIT企業のギークスに就職した。現在は、初心者ゴルファーのためのイベントや、eコマース、動画コンテンツを展開するゴルフ情報サイトで、編集・企画を担当している。
「BBT経営塾で学んだ構想力や議論する力は、企画をみんなで進めていく現在の業務で直接役立っています。また傾聴力や建設的な議論のためにあえて反論する『デビルズ・アドボケイト』の考え方は鍛えられたと思います」
上司である池田陽太インターネット事業本部長は「会議では編集部の立場での発言だけでなく、『事業本部全体としてこうやっていったほうがいいのでは』といろいろな年齢や立場の人間がいるなかで俯瞰的な視点から発言してくれる」と稲葉氏を評価している。
IT企業のゴルフ事業という立場でサイトを成長させ、ひいてはお世話になってきたゴルフ業界を盛り上げて恩返ししたいと稲葉氏は意気込む。
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着眼点の鋭さにぐうの音も出ない
松﨑 英治
トーメンエレクトロニクス
コーポレート本部執行役員
東京理科大学基礎工学部卒業後、豊田通商入社。
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2014年4月より、現在の会社へ出向。 -
週末、子供が本を読んでいる傍らで課題に取り組む
昨年1月、豊田通商は東証一部子会社であるトーメンエレクトロニクスの100%子会社化を発表した。そのとき豊田通商の電子事業統括部長としてグループの電子デバイス事業の戦略立案に携わっていた松﨑英治氏は同年4月、トーメンエレクトロニクスに出向。執行役員として経営企画業務と新事業開発を担当することになった。
松﨑氏がBBT経営塾に入塾したのは、そんな多忙を極めた時期だった。「最初、人事部の先輩から『受講してみないか』と打診されたときは出向で就業環境が変わるから断っていたんです。ところが別の卒塾生の先輩からも『受けてみるといいよ』とアドバイスされ、それなら入塾してみようと。きっかけは非常に受動的でしたね(笑)」
BBT経営塾は1年間にわたって大前研一塾長や経営者による講義を映像で受講し、塾生同士の徹底的な討議を通じ経営者としての総合的な思考力やコミュニケーション力を身につけるプログラムである。講義の受講や討議はオンラインで行われ、学習する時間や場所に制約がないのが特徴だ。
当初は受動的に入塾した松﨑氏だが、現在は多忙な毎日から時間を捻出し、積極的にプログラムに参加している。「実際に受講してみると、非常に面白かった。塾の講座や受講生同士の議論を通じて、自分が持っていた世界観はかなり狭かったことに気づかされました。自分たちの業界や市場に留まらず、さらに大きな世界観を持って世の中や生き方を構想し、自社や自分を捉えることが大切だと学びました。また、自分1人の知見が及ぶ範囲は限られていますが、この塾では塾生同士の議論によって集合知が生み出され、1つの答えが導き出されます。それは経営課題の解決策を考える手法として有効です」
トヨタグループの1社である豊田通商では、問題解決の手法として5WHYを用いる。なぜを5回繰り返して真の原因を突き止め、問題解決を行うやり方をすでに松﨑氏は身につけているわけだが、BBT経営塾で要求される事実を徹底的に調べ、積み上げて考える「ファクトベース」の思考法がとても勉強になると話す。
「5WHYでは真の原因を突き止め、そこから解決の方法論を考えるときについ勘や経験に頼ってしまうことがあります。ところが塾で出される課題に対してはファクトベースの思考が要求され、実際に他の塾生が発表する着眼点の鋭さや情報量はぐうの音も出ない。
ほどです。もちろん自分の専門分野である半導体に関してはそれなりの提案をしていますが、みんなで議論していると私が気づかない視点、知りえていない知見がたくさん出てきます」
毎朝、七時半に出社し夜はほぼ会食という日々を送る松﨑氏が学習に充てる時間帯は出社後の一時間と帰宅後である。週末には本好きの子供と一緒に図書館へ行き、子供が本を読んでいる傍らで自分は塾の課題に取り組む。
国内のエレクトロニクス産業が成熟化する現状を受け、国内事業再編と海外事業拡大を行ってトーメンエレクトロニクスを国内半導体商社からグローバルエレクトロニクス商社へ飛躍させること、そのために必要な人材を育成することが松﨑氏の課題である。この課題解決への取り組みに、BBT経営塾での学びが役立っているという。たとえばいま、松﨑氏は若手社員を選抜し、新生トーメンエレクトロニクスのビジョン作成を進めている。ここでは塾の講座で学んだ内容を活用している。
「そもそもビジョンとは何か、我々の会社の歴史とは何かというところまでさかのぼって考え、先日、経営陣に対して発表しました。ビジョンづくりに参加した社員は目つきが変わり、その内容を他の若い人たちにいろいろな場を通じて伝達していっています」
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えらいとこに来てしまった…
水上 敏郎
井上特殊鋼
取締役 総務部長、営業本部部長
立命館大学産業社会学部卒業後、同社入社。
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営業本部営業サポート室などを経て現職。 -
毎週投稿すると宣言して、やり切ると決めた
BBT経営塾のプログラムの1つに「Real Time Online Case Study (RTOCS)」がある。毎週1人の経営者を取り上げて、「自分がその経営者だったらどうするか」を考え回答し、最後に大前塾長が答えを出すというケーススタディである。
井上特殊鋼で取締役総務部長を務める水上敏郎氏は25期生で唯一、これまで1週目を除き、毎週回答を提出し続けている。
「ディスカッションの中でOB塾生の方から挑発されて『全部やる』と宣言してしまいました。正直、辛かった時期があるのですが言った以上、最後までやり遂げようと」
水上氏はそう笑う。
井上特殊鋼は鋼材の問屋業から出発して特殊鋼の加工製品販売に進出し、現在は「情報と知識による製造業の支援」を掲げコンサルティングセールスを行っている会社である。
同社において水上氏は人事、情報システム、財務など管理部門全般の統括に加え、営業支援やグループ会社支援まで幅広く担当する、いわば「番頭」である。
水上氏が入塾したきっかけは、2013年に取締役に昇格したことだった。「弊社の社長は主体性を重視する人です。『自分で考えてやりなさい』と。では何をすべきかと考えたとき、まずは取締役としての自分のレベルアップが必要だと。役員として、外部から私を通じて会社を評価されたとき、外部から『大したことのない会社』と思われたくない。私自身のレベルが上がらないと会社のレベルも上がらないという問題意識がありました」
だが、入塾した当初の印象は「えらいところに来てしまった……」。他の塾生から質の高い投稿がどんどん出される一方、自分の投稿には痛いところを突くコメントがついたからである。
前述したRTOCSの1週目は出された課題が英語だったため、英語が苦手な水上氏は投稿できなかった。「心が折れかけた」と言う水上氏だったが、2週目のRTOCSは既知のテーマだったため、恐る恐る投稿してみた。「討論にはディスカッション・パートナーというコーチ役も参加していて、この方が懇切丁寧にフォローしてくださいます。論拠が不足している部分があれば『この点についてはいかがですか』とやさしく指摘してくださり、次第にコツがわかってきました。その方への感謝の気持ちもあって最後までRTOCSをやり切ろうと決めました」
水上氏は毎週、日曜日をRTOCSの課題に充てている。それだけ学習に注力して、どんな効果があったのか。「私は直感主体で動くタイプで、社長から論理性の不足を指摘されることがありました。RTOCSを通じ十分なファクトを積み上げることで正しい答えを導き出す習慣をつけることができました。ファクトベースの思考法は会社組織の運営や他社との提携交渉など、業務のなかで十分に役立っています」
受講前と後の変化として、水上氏はプログラムを通じて視点が経営者目線に上がり、経営陣として的確な判断ができつつあることで、役員としてやっていく自信がついたことを挙げている。
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答えのない時代の本当の「卒塾」とは
吉村 晃一
アイネス
取締役常務執行役員
産業システム事業部長
88年同社入社、公共システム本部、生保システム本部長
インタビュー記事を読む
などを経て、現職。 -
往復四時間半の通勤時間で調べ物をする
松﨑氏と水上氏が現役の塾生であるのに対し、情報処理サービス全般を手掛けるアイネスの取締役常務執行役員を務める吉村晃一氏は昨年の卒塾生である。
吉村氏が入塾したきっかけは、会社から「やってみないか」と声をかけられたからである。「その時点で執行役員になってはいましたが、経営をじっくり学ぶ機会はそうありません。それまでもさまざまな研修を受けてきましたが、単発の研修だと知識を吸収しただけで終わってしまいます。しかしBBT経営塾は1年間継続して学習する点が大きく異なるので、入塾してみようと思いました」
もう1つ、受講した理由がある。それは「時間があり余っていた」(吉村氏)。当時は通勤に往復四時間半かかっていたので、オンライン学習というスタイルは通勤時間の有効活用にうってつけだったのだ。
課題について投稿するのも他の塾生からのコメントに返答するのも、ちゃんと調べて裏を取らなければできない。電車の中でiPadを使い調べ物をする日々が続いた。
塾で学んだこととして吉村氏が挙げるのは「考える」ことの重要性である。「それまでも考えることの重要性は認識していましたが、捉え方が少しズレていました。以前は『考えること=1つの答えを導き出すこと』だと思っていましたが、『答えのない時代』である現在はそれではダメです。おそらく正解なんかなくて『こういうことも考えられる、ああいうことも考えられる』と幅広く考えて複数の選択肢を用意することが必要で、その点、他の塾生の意見がとても参考になりました」
考えるという行為についての認識が変わった結果、吉村氏の行動には変化が起きた。事業部で新しいことをやろうとするとき、以前なら「こうしろ」と自分の意見を押し付けていたのに対し、「君はどう思う?」と部下の意見を聞き、議論を重視するようになったのである。
もう1つ、入塾後に起こった変化として情報発信がある。1年間にわたり熱心に情報収集を継続し、それが習慣化した結果、社内会議での話題が豊富になったり、部下と情報を共有して新しいビジネスを考えさせたりといったことができるようになった。これらの変化は部門の活性化に貢献している。
ただし、BBT経営塾で学んだことはまだ十分には活かせていない、とも。「当社は昨年、50周年を迎えましたが、いまのビジネススタイルでずっとやっていくことは難しく、事業構造をどう変えていくのかが課題です。内容はまだ公表できませんが、それを自分たちで描いて実践し、成果を出すことができたときが本当の『卒塾』です」
正解のない時代にいかに考え、経営課題を解決するか。BBT経営塾は塾生同士の他流試合を通じ、そのやり方を修業する場となっているようである。