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日本のリカレント教育は世界最低!?
スウェーデン、デンマーク、中国に学ぶ21世紀の人材戦略

~人生100年時代に備える「リカレント教育」のあるべき姿~
日本のリカレント教育は世界最低!? スウェーデン、デンマーク、中国に学ぶ21世紀の人材戦略
2019.02.01 グローバルリーダーの育成リカレント教育人材育成学び直し海外事例
人生100年時代の到来に備え、教育と就労を繰り返す「リカレント教育」に注目が集まっています。政府が推進しようとしているリカレント教育は「退職後の再就職」が主眼となっていますが、私たちBBTではリカレント教育を「劇的な経済の変化に対応し、時代に淘汰されない力をつけるための、若年からの継続的な学び」であり「企業にとって重要な人材戦略」と考えています。  今回は、BBT大学学長 大前研一による講義『世界のリカレント教育の動向と日本への提言~人生100年時代に備える「リカレント教育」のあるべき姿とは?~(2018年11月開催)』から、海外の「リカレント教育先進国」の現状や取り組みなど、世界のリカレント教育の潮流を紹介しつつ、日本企業が取り組むべき人材教育の方向性をご紹介します。

日本のリカレント教育は「世界最低水準」だった?

日本でもにわかに脚光を浴び始めた「リカレント教育」ですが、世界的に見て日本のリカレント教育の現状はどうなっているのでしょうか?

 

まずEU各国の職業訓練政策を比較すると、国際競争力の高い国ほど、大学をはじめとする教育機関で積極的にリカレント教育を推進しています。一方、日本はどうでしょうか? 例えば25歳以上の「学士」過程への入学者の割合の国際比較を見ると、日本はOECD諸国の中で最低レベルにあることがわかります。日本のリカレント教育は、世界的に見ても驚くほど低水準なのです。

これまで多くの日本人は学び直しをしてきませんでした。国も企業も、明治以降の工業化時代の人材育成方針のままで、あまり変わっていません。このままでは21世紀、日本人は確実に「劣等世界市民」になってしまうでしょう。

 

一方、海外諸国、特にスウェーデン、フィンランド、デンマークなど北欧の小国、またベルギー、ドイツ、フランスなどの国々はいち早くリカレント教育の重要性に気がついて、国を挙げてリカレント教育への積極的な取り組みを始めました。ここで、代表的なリカレント教育先進国の取り組みを紹介しましょう。

人生もキャリアも「パズルのようなもの」と考えるスウェーデン

リカレント教育発祥の国スウェーデンは小国で人口が少ないため、もともと「国民には就労と教育を繰り返しながら能力を高めつつ、できるだけ長く働いてもらおう」という発想があり、個人のライフステージに応じた生き方を国や企業が後押ししてきました。

 

スウェーデンのリカレント教育に対する考え方の基本には「人生もキャリアも状況変化やタイミングに応じて、さまざまな選択肢のピースを柔軟に組み上げていくパズルのようなもの」という考え方があります。

このライフパズルの考え方は実際にスウェーデンの人々の生活や働き方に反映されています。例えば、「男女問わず、キャリアの途中で子供を育てたり、介護をしたり、学び直しに大学へ戻ったりする」「男性は夜7時までにほとんどの人が帰宅。家族と過ごしたり、勉強する時間を確保する」などです。

 

スウェーデンを代表するアパレル企業H&Mでは、有給の取得率は100%を超えており、ワークライフバランスを重視。産前産後休暇と育児休暇制度も充実しており、大学で学び直しを行いながら30年以上勤務する社員も少なくありません。

また、社内の公用語は英語とし、語学力が不足している社員にはトレーニングや海外研修を実施するなど、社員の英語教育にも積極的に取り組んでいます。

フレキシキュリティ」という考え方で産業成長も促したデンマーク

福祉国家における積極的な労働市場政策モデルにフレキシキュリティ」というものがあります。これは、雇用の柔軟性(フレキシビリティ)を担保しながら、同時に手厚い失業保障によって労働者の生活の安定(セキュリティ)を図る政策です。

 

リカレント教育先進国の一つであるデンマークでは、この「フレキシキュリティ」の考え方を導入。「職業訓練(リカレント教育)だけではなく雇用制度・労働市場改革をセットで実施しています。


デンマークでは、「柔軟な労働市場」「手厚いセーフティネット」「積極的な雇用政策」の3つに対して同時に取り組んだことにより、産業構造の調整が容易になり、経済成長を刺激。社会保障財源にも好循環がおよんでいます。特に、次の仕事に移るための教育訓練プログラムが充実しており、教育訓練を受けない人には失業給付金も支給されないのです。

「知の共有」という文化を重視。社員教育を徹底的に内製化するファーウェイ

日本よりリカレント教育(社員教育)が進んでいるのは欧州諸国だけではありません。注目すべきは中国、特にファーウェイです。社内に世界最先端の知見(IoT/AI等)が揃っている同社は、社内に学ぶべきリソースが豊富にあるため、「リカレント教育」を内製化し、そのための人材、資金、場所を提供することを可能にしているのです。

 

ファーウェイは、社内研修機関の設置に力を入れているのが大きな特徴です。企業のナレッジシェアリング戦略として、「ファーウェイユニバーシティ」と呼ばれる社内研修機関や、世界45か所にトレーニングセンターを設置しています。また、講師はベテラン社員が務め、自身の業務経験を語り、後進の質問に答えるというスタイルがメインであり、日本のように外部から識者を招くという研修スタイルはごくわずかです。


ファーウェイでは、新入社員には必ず2人のコーチがつきます。1人は日々の業務の指導役で、もう1人はファーウェイ社員としてどう働くべきか、若手の悩みに答えながら導くメンターの役割を担います。ファーウェイはこうした「知の共有(シェアリング)」という文化を非常に重視しており、メンターによって入社初期に徹底的に刷り込まれるのです。

海外の取り組みを参考に、日本企業も“稼ぐ力”を磨くリカレント教育の導入を!

フィンランドでは、アントレプレナーシップ、すなわち起業家精神を幼稚園の頃から教育します。そのためフィンランドでは、起業家が雨後の筍のごとく出てきています。北欧諸国では、「21世紀の“答えのない社会”で、どういう人材を育て、リーダーシップを養成するのか」について仮説を立て、立証しながら実現へと導いてきたのです。

 

今回紹介した海外型の仕組みを日本が導入するのは容易ではないでしょう。そこには下記のような日本特有の背景があるからです。

 

・解雇規制緩和、失業保険改革に時間を要する。

・欧米より「雇用の流動性」が低く、会社を休んで「学び直し」をするリスクが高い。

・会社を休んで「学び直し」をしても、給料がアップするのではなく、「キャリアのブランク」と認識される。

 

しかし日本もこのまま手をこまねいているわけにはいきません。日本企業は、海外の取り組み等を参考にしつつ、「教育を受けながら新しい仕事をする」→「仕事の中から、次の新しいチャレンジに必要なスキルが何かを探る」→「再び教育を受け、学ぶ」。こうしたリカレント教育の仕組みをいち早く組み込んでいく必要があるでしょう。


政府が言うように、「人生最後の40年のためにリカレント教育を行なう」というのはそもそも全くナンセンスな話です。これからの日本人は、デジタル・ディスラプションの時代(デジタル化による破壊的変革の時代)に淘汰されない「稼ぐ力」が最高の貯金である! という認識を持つ必要があり、その稼ぐ力を磨くのがリカレント教育の役割なのです。

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