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もしも、あなたが任天堂の社長ならば【RTOCS®】

「RTOCS®(Real Time Online Case Study)」をご存知でしょうか?「RTOCS®」とは、BOND-BBT MBAプログラムをBOND大学と共同で運営する株式会社ビジネス・ブレークスルーが独自に開発した教育メソッドです。国内外の経営者、リーダーが取り組んでいる現在進行形の課題をケースとして取り上げ、「自分がその組織のリーダーであればどのような決断を下すか」を経営者、リーダーの視点で考察し、「意思決定」に至る力を鍛錬。前例のない予測不可能な現代社会において時代の流れを読み取り、進むべき道を見極め、切り拓くことのできるビジネスリーダーの育成を目指しています。

本プログラムでは大前研一が担当する「戦略とイノベーション Part A(Strategy and Innovation Part A)」で取り組む「RTOCS®」。一部のケースが書籍化され、Amazon等で販売されています。

今回は、書籍版「RTOCS®」で取り上げられるケースの一部をご紹介していきたいと思います。1つのケースにおいても解説をすべてお見せすることができないのが残念ではありますが、「RTOCS®」の一端を垣間見ることができるのではないでしょうか。お時間があるときにぜひご覧ください。

今回ご紹介するケースは、任天堂です。

あなたが任天堂の社長ならばDeNAとの提携を機に如何にスマホ時代におけるゲーム市場の覇者となるか?

【BBT-Analyze】大前研一はこう考える~もしも私が任天堂の社長だったら~

ゲーム業界の雄として走り続けてきた任天堂は、「ニンテンドーDS」「Wii」の後継機種の販売台数が伸び悩み、2012年3月期より3期連続の営業赤字に転落した。ゲーム業界では従来の据置型専用機から携帯型専用機、更にはスマートフォンなどのモバイル端末へと急激なプラットフォームシフトが起こり、「専用ハード+専用ソフト」という従来の任天堂の収益モデルが通用しなくなってきた。今、DeNAとの提携によりスマートフォン対応を急ぐとともに、如何にゲームプラットフォームの競争を制し、競合他社にはない独自の顧客価値を提供していくかが同社の課題となっている。

◆世界のゲーム市場は拡大、その裏で苦戦を強いられる家庭用ゲーム

#国内市場は「家庭用」から「モバイル」へシフト

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国内のゲーム市場は「家庭用」市場が長期的に縮小する一方、スマートフォンなどの「モバイル」向けが急成長し、全体的には10年前と比べおよそ2倍となる1兆円規模に拡大しました。図−1及び図−2をご覧ください。国内プラットフォーム別ゲーム市場規模は、2013年にはスマートフォンゲーム市場が5千億円を超え、ついに家庭用ゲーム市場(ハード+ソフトの合計)を追い抜きました。ゲーム市場のプラットフォームは、据置型(コンソール)ゲーム機などの家庭用専用機からスマートフォンへと急激にシフトしていることがわかります。

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#海外市場でも加速するモバイル化

ゲーム業界のパラダイムシフトは、国内に限ったことではありません。図−3が示すように、2013年の世界のゲームコンテンツ市場(ハードウェア除く)は約6.3兆円にのぼり、その約8割弱をモバイル及びPC向けゲームが占めています。海外でも急速にモバイル化が進んでいるのです。

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#スマートフォンゲームが業界を索引

世界のゲーム市場は、2018年には約14兆円規模に成長すると予測(ゲーム調査会社Newzoo2015年版マーケットレポート)されており、その市場の伸びを牽引するのがスマートフォンゲームです。2014年のスマートフォン世界出荷台数は12億4000万台。一方、世界中でヒットした携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS/3DS」の約10年間の世界累計販売台数は2億台、家庭用テレビゲーム機「Wii」は1億1000万台と、スマートフォンの年間出荷台数はこれらを遥かに上回っています。この数字からも、家庭用ゲームとモバイルゲームとではユーザーとなりえるベースの人口がまったく異なることがわかります(図−4)。

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◆明暗が分かれた国内ゲームメーカー

#家庭用ゲーム、フィーチャーフォンゲームの業績が悪化

業界の急激なスマートフォンシフトによって、家庭用ゲームやフィーチャーフォンゲームが主力のメーカーは大きな煽りを受けています。図−5の国内ゲーム大手の売上高をご覧ください。

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ソニー・コンピュータエンタテインメント(以下SCE)は2007年度から、任天堂は2008年度から売上高が急激に落ちています。SCEが2013年に発売した「PlayStation 4」は全世界累計販売台数が2015年3月1日時点で2000万台を突破し、歴代の「PlayStation」シリーズのハードウェアとしては最速のペースだと言われていますが、それでも業績は回復していません。先述したように、家庭用ゲームとスマートフォンゲームとでは、もはやユーザーの母数にはるかな差が生まれているのです。

フィーチャーフォン向けプラットフォームで急成長したDeNAやグリーも、スマートフォンゲームが台頭した2011〜2012年頃をピークに売上高が下降しています。

図−6を見るとわかりますが、海外でも旧プラットフォーム(家庭用、PC向け)が主力のメーカーは業績が停滞しています。一方、スマートフォン向けソーシャルゲームを開発するイギリスのKing Digital Entertainment[i]やフィンランドのSupercell[ii]は、2012年頃から急成長しています。また、米国に拠点を置くPC向けソーシャルゲーム開発会社Zynga[iii]は設立当初、非常に注目されていましたが、スマートフォン向け市場の拡大に伴い、近年は業績悪化の一途を辿っています。

[i] King Digital Entertainment:イギリスに拠点を置く、iPhone及びアンドロイド端末向けのゲームメーカー。 2012年、同社によって開発された無料ダウンロードのゲーム「キャンディークラッシュ」は世界各国でヒットした。

[ii] Supercell :2010年にヘルシンキで設立されたモバイルゲーム開発会社。2013年10月、ガンホー・オンライン・エンターテイメントとその親会社のソフトバンクが株式の51%を15.3億ドルで取得した。

[iii] Zynga:サンフランシスコが拠点のソーシャルゲーム開発会社。主にFacebook上で動くブラウザゲームを開発している。

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#新興事業者の業績が好調

図−7を見ると、プラットフォームのスマートフォンシフトに対応したゲームメーカーは業績を伸ばしています。なかでもここ数年業績を伸ばし続けているのが、新興事業者であるガンホー・オンライン・エンターテイメント(以下ガンホー)やコロプラです。ガンホーが手掛けたスマートフォン向けゲーム「パズドラ」の世界的ヒットは大きな注目を浴びました。コロプラはフィーチャーフォン向けゲームから出発し2011年にスマホゲームに参入、急成長を遂げた会社です。

一方、家庭用や業務用ゲームなど旧プラットフォームを主力としてきたゲームメーカーは、軒並み苦戦を強いられています。但し、旧プラットフォーム組の中でもスマートフォンに上手く対応できたバンダイナムコホールディングス(バンダイナムコHD)は業績を伸ばしています。

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#バンダイナムコHDは自社キャラクターの活用が勝因に

では、勝ち組の中でも売上高が群を抜いているバンダイナムコHDの勝因は何だったのでしょうか。同社は、「ガンダム」「ワンピース」といった新旧の人気キャラクターをスマートフォン向けコンテンツに活かすことで、幅広い世代のファンの囲い込みに成功しました。[図−8/バンダイナムコHDのコンテンツ事業別売上高]を見ると、家庭用ゲームの売上が2009年から横這いのなか、スマートフォン向けコンテンツが拡大し、同社の売上を牽引していることがわかります。

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◆任天堂が3期連続の営業赤字に

#ヒット商品の後継機種が伸び悩む

スマートフォン普及前後における業界の急速なパラダイムシフトによって大きな打撃を受けたのが、家庭用ゲーム市場を長年牽引してきた任天堂です。同社は2004年に発売した携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」、2006年に発売した据置型ゲーム機「Wii」の世界的なヒットにより、2009年3月期には連結売上高1.8兆円を記録しました。しかし、2012年3月期に決算公表以来初の営業・最終赤字に転落。以降、3期連続の営業赤字に沈んでいます。後継機種の「ニンテンドー3DS」、「Wii U」の販売台数が伸びなかったことが、業績不振の大きな要因として挙げられます。

営業赤字を招いた原因は、もう一つあります。図−9をご覧いただくとわかりますが、営業赤字に陥った2011年3月期以降の売上高は6000億円前後と、実は最盛期以前の数字とほぼ変わりません。つまり、常態の売上規模に戻ったのです。しかし任天堂は、売上ピーク時のコスト体質を常態とみなした経営を続けたため、3期連続の営業赤字を招いてしまったのです(図−10)。

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#「スマホシフト」により、任天堂の勝ちパターンが崩壊

では、なぜ世界中でヒットした任天堂の商品が、これほど伸び悩んでいるのでしょうか。

図−11ではゲーム業界のマルチプラットフォーム化を説明していますが、コアゲーマーからカジュアルゲーマーまで、利用するプラットフォームが広く分散するようになったことが分かります。その中でも特にカジュアルゲーマーの市場がスマートフォンの普及により拡大しているというのが現状です。一方のコアゲーマー市場は縮小する一方です。機器をわざわざテレビに接続してゲームをしたり、ハードウェアやソフトウェアを買い替えたりして、これまでの任天堂を支持してきたコアなゲームファンが減少しているのです。

また、任天堂はこれまで、子供向け・ファミリー向けの商品を開発し、他社との差別化を図ってきましたが、その路線だけでは現在の市場のニーズに応えることができていません(図−12)。

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図−13にはゲーム業界のパラダイムシフトをまとめました。これらからは、ここまで述べてきたプラットフォームの「スマホシフト」を背景として、任天堂の勝ちパターンであった「専用ハードと専用ソフトをパッケージ販売する」というビジネスモデルが機能しなくなったということが言えます。

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<続きは書籍版で>

各ケースの”今”について、どうのような課題を見い出し、あなたは何を導き出しますか?(BOND-BBT MBA事務局より)今回のケースをご覧になられて、皆様いかがでしたでしょうか?書籍からの転載ということもあり、最後の結論についてこの場でご紹介することができず心苦しいところではございますが、「RTOCS®」に取り組む際、私どもは「皆様ならどうするか?」という点を大切にしております。

大前研一が述べている解説が正解というわけではございません。あくまでも、論拠に基づいて考え抜いた“ひとつの解”です。その思考プロセスから考え方や視点などを学び、ご自身でその時々の“最適解”を導き出せる力を鍛えていっていただきたいと考えております。

上記のプロセスをご覧いただき、皆様でしたら最終的にどのような結論を導かれますでしょうか。ぜひ一度、お時間をとって考えてみてください。

そして、ご自身の考えと大前の考えを比較してさらに学びを深めたいとお考えの方は、よろしければぜひ書籍をご購入いただければと存じます。

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