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株式市場からのフィードバックを真摯に経営に活かす大切さ

「創業前~IPO後に大切にしておきたいこと」にフォーカスした、福田徹さんによる1年間の連載も最終回となりました。
今回は、無事IPOを成し遂げた後、どのように株式市場と向き合うべきかについてお話し、シリーズの締め括りとさせていただきます。Bond-BBT MBAプログラムを修了後、自ら福田総合研究所を起業し、創業に関する支援経験を豊富に持っていらっしゃる福田さんだからこそ持っていらっしゃる視点、経験をわかりやすく教えていただきました。

読者のみなさんには、あらためて1回目から連続で読んでいただくことをオススメします!

今回は、無事IPOを成し遂げた後、株式市場に対してどう対峙していくかという話になります。世の中にはIPOをゴールとしているのではないかと揶揄されてしまうようなベンチャー企業の経営者がいます。経営者としてのゴールをIPOまでとしてその後、経営の最前線から身を引いてしまうと、その会社のイメージまで損なわれてしまいます。株式市場と上手に付き合うことは、上場企業にとって極めて重要なことです。

上場後は、積極的に情報を開示することが極めて重要です。上場企業数約3,600社の中に埋もれてしまうと、株価が割安に放置されてしまい、出来高が薄くなり、せっかく上場してもセカンダリーマーケットで株式市場から資金調達できなくなり、上場後も金融機関からの借入れだけに頼らざるを得なくなるからです。私も上場経営者から株式公開して後悔したという話を聞くことがあるのです。

それでは、株式市場に対してどのように向かい合って、フィードバックを得たらよいでしょうか?4つの観点から考えてみます。

一つ目は、上場企業数は、投資家にとって、案外多いということを理解すべきです。当然上場会社は各業界のトップ企業が多いのですが、上場してしまえば、そんなことは関係なくなり、投資家マーケットに情報を発信しなければ、たとえ一般的に知名度の高い会社であっても、市場では見向きもされず、出来高がなくなり、場合によっては仕手株となってしまいます。一人の機関投資家にとってはいつも売買しようと考えていて株価が頭に入っている企業数はせいぜい約50銘柄と言われます。一人の証券アナリストがいつも業績を調査している企業数は約20銘柄です。一個人にとっては、次はどの株式を買おうかと考えることを想像すると、上場すると3,600分の1の世界に突入するわけです。つまりマーケットに情報は発信をせざるを得ません。それは、資金調達のメリットだけではなく、例えば、証券アナリストが担当につくと、無料の経営コンサルタントとして、同業他社情報、株式マーケットと自社の業界のマーケットをデータで解説してくれます。上場企業の中でアナリストレポートが書かれるのは約1,000社だけです。せめて相手にしてもらえる企業になりましょう。一般的には、機関投資家の投資により妥当な株価形成に役立ちますし、個人投資家の投資により出来高に厚みが出てきます。私の経験では、日本電産の永守社長は積極的に機関投資家に乗り込んで、自社の状況と将来の姿をきちんと説明し、株式市場からの資金調達に成功しています。

二つ目は、株式市場では情報発信しないと、自社のことは全くわかってくれないということです。特に、最近の上場企業は社名から何をやっている会社かさっぱりわからないと思ってしまう投資家が多いです。名が体を表さないのです。企業が何をやっているか理解できないと投資できません。自社は業界ではトップ企業かもしれないが、株式市場では一からスタートだということを再認識することを経営に活かし自社の強みを見つめなおすことは重要です。

三つ目は、自社株は自社で売らないといけないということです。証券会社は推奨販売の禁止や相場操縦などがあり、もう積極的に特定の会社を推奨しません。自社が、特に経営者が自社株を投資家に販売するという姿勢が非常に重要となります。投資家説明会に社長が出席すると、この会社は社長への距離が近いということで、多くの個人投資家も安心して買うものです。社長は個人投資家が何を考えているかいいチャンスとなります。

四つ目は、制度面からもかなり多くの情報開示をせざるを得なくなっていること。皆さんは決算短信や有価証券報告書をご覧になったことはあるでしょうか?そこには企業の様々なリスクが書かれています。設備投資の状況や企業が抱える課題も書かれています。逆に様々な用途で上場企業の情報はこれらの資料で利用できるといってもいいかもしれません。つまり投資家が何を求めているかを理解することができます。

さて、このように情報開示をしていくと、投資家が何を望んでいるか、企業努力がまだ足りないかどうか、市場は企業に何を要求しているかがわかってきます。これらは、いわゆる「物言う株主」のことを言っているのではなく、日々の株価や出来高を観察することで分かります。日本市場は、私は完全な効率的市場ではない、つまりすべての情報が株価に盛り込まれているわけではないと思いますが、株式市場から得られる情報は貴重です。また逆に企業サイドでも、一度情報開示の階段を上ると後戻りできません。例えば、月次の売上情報を開示すると、その後、月次情報を出さなくなると業績悪化を投資家は心配します。株式市場では、沈黙の螺旋ともいうようなものがあり、一度企業が口をつぐんでしまうと、投資家はその企業に対して最悪のことを考えてしまうのです。悪い情報ほど、早めに開示しないと、どこまで悪いのかわからないということですね。

IPOというのは、企業のひとつのマイルストーンです。しかし、ゴールとすべきではないのです。IPOをして市場からのフィードバックを生かすことで更に一層成長することができるのです。

1年間にわたって連載してきましたが、いかがでしたでしょうか?現在、4社のIPOコンサルティングを行っています。すべての企業がIPOできるということはありませんが、毎年クライアントがIPOをされていきます。クライアントが無事成功することを生きがいにBBT-Bond MBA終了後も学んだことを糧に当社も成長していきたいと思います。

またどこかでお会いしましょう。

講師プロフィール

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福田 徹 氏
株式会社福田総合研究所 代表取締役社長
1984年3月早稲田大学卒業、豪州Bond大学大学院MBA取得。野村證券、ソニー生命(MDRT)を経て、2005年福田総合研究所設立。その間、証券英国現地法人にて、サッチャー政権の英国ビッグバン対応業務を行う。國學院大學で、財務分析、証券分析、関東学院大学でFP、武蔵大学で金融数学を講義、経済学部金融学科でファイナンス、ケーススタディーのゼミを担当。豪州のマードック大学ではマーケティングの客員講師。上場会社の社外取締役と社外監査役を兼務。中小企業から1部上場企業まで、各社のテーマに応じてコンサルティングを行っている。大手証券、地銀、地銀協、生保など多くの企業で研修も実施。

主な著書:「なぜ、会社の資金繰りが悪くなったのか?」(税務経理協会)、CFO協会のIRテキストブック監修、「上場企業、上場準備企業のIR担当者向けテキスト」(電子書籍)、『「株式上場」が頭をよぎった経営者が読むIPO入門』(Amazon Kindle)。論文「証券アナリストとIRオフィサーの関係性について」。

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