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“近江商人から学ぶ「三方善し」” ~すべては信頼のもと成り立つ~

MBAを受講するなら最低限知っておきたいフレームワークや考え方をドラッカーの格言を引用しながら学ぶマーケティング入門講座です。
今回はマーケティング活動を実行するにあたっての考え方についてコメントします。

“近江商人から学ぶ「三方善し」” ~すべては信頼のもと成り立つ~

『利益は、個々の企業にとっても、社会にとっても必要である。しかしそれは企業や企業活動にとって、目的ではなく条件である。企業活動や企業の意思決定にとって、原因や理由や根拠ではなく、その妥当性の判定基準となるものである。』(『マネジメント エッセンシャル版』p14)

企業は将来にわたって無期限に事業を継続するという前提、ゴーイング・コンサーン(going concern)により、投資した以上のリターンを獲得できるビジネスモデルを考え、それを実効することを絶えず繰り返します。

利益を上げた経営者は社会から評価を受け、株主からも喜ばれるでしょう。企業を継続的に存続させ、利益を上げることによる世の中の賞賛により経営者は日々の努力を継続します。しかし会計上の利益には実体がありません。そのため会計の抜け道を積極的に追いかける企業も出てくるはずです。過去、エンロンやライブドア、近年は東芝が相当するように、実態の無い利益を追いかけるあまり見せかけの利益を出すための手段を選ばなくなります。これは明らかに目的から外れます。

ドラッカーは「現代の経営」の中で企業を3つの次元で捉えました。経済的機関、社会的機関、公的機関です。1つ目の経済的な機関とは、企業の外部である顧客のために成果を生み出す機関を意味します。上述した利益は、元来は顧客から得られるもので、顧客満足が継続しなければ利益を出し続けることは出来ません。そのために利益は重要です。しかし、あくまでも経済的機関として評価されるための尺度に過ぎないのです。

2つ目の社会的な機関とは、企業は人を雇用し、育成し、報酬を与え、人を生産的な存在にする機関です。従って、社会的な機関は統治能力と価値体系をもち、権限と責任を有します。考えてみると社会に出て起業する人以外の多くはどこかの企業に務めます。寝ている時間を除く、起きている時間の多くを企業で過ごします。そのためにそこで過ごす時間が社員や従業員にとって有意義である必要があります。ただ単に仕事をこなすのではなく企業のミッションを理解してチームとして動く。その過程で個々人は成長していくのです。

3つ目は、企業は社会とコミュニティに根ざすために公益を考える必要があります。そのため公的機関でもあるのです。企業は地域に雇用を生み、収益を還元することで地域は潤います。そもそもビジネスの土台となる地域に富を還元することは当たり前で、ビジネスは先に地域の資源などを通じて収益をあげています。従って企業として公的機関としての意義も至極当然なのです。

上述したように利益に関して、ドラッカーは「利益だけを追求してビジネスを行うことは間違っています。利益はビジネスの成果を判断するための基準ですから。」と言いました。利益は無くてはならないものですが、追求しすぎると間違った方向へ向かう危険性を示唆しています。企業が自らの利益のみを追求すると、悪質な商品を販売し、環境や省エネなどを考えないで生産性のみを追及するということも考えられます。しかしこれでは、社会に負担をかけることになり、最終的にその企業は社会から排除されることになります。近年の事例や過去の事例でも利益のみに捉われすぎて自らの命を絶つことになった企業が多々ありました。

近江商人に昔から伝わっている経営哲学に「三方良し」という哲学があります。売り手、買い手、世間の三者がバランスよく成り立ってはじめて商売が上手くいくという考え方です。利益は目的ではなく結果でしかありません。あくまで利益は目的を実現したかどうかを図る尺度で、顧客からの支持を受けているかどうかの尺度です。これは企業の存続目的である顧客を生み出すことの尺度なので、高い利益を上げることと社会貢献を果たすことは密接に関係するのです。

前回のコラムではターゲットやコンセプトに対して商品、価格、流通、プロモーションの最適化について考えました。今回はより大きな視点で企業、顧客や市場、そしてそれを取り巻く環境の中での整合性の重要性を考えました。マーケティング活動は個々のテクニックよりも全体最適を考え一貫してマネジメントしながら成果を出す取り組みなのです。

次回は、最終回。成果に対しての考えをテーマにコメントしていきたいと思います。

講師プロフィール

hayasima

早嶋 聡史 氏
株式会社ビズ・ナビ&カンパニー 代表取締役
株式会社ビザイン 代表取締役
一般社団法人 日本M&Aアドバイザー協会 理事

国立九州工業大学 情報工学部 機械システム工学科 卒業、オーストラリア ボンド大学 大学院 経営学修士課程(MBA) 修了。
横河電機株式会社において、R&D(研究開発部門)、海外マーケティングを経験後、2005年11月に株式会社ビズ・ナビ&カンパニーを設立し、マーケティング担当取締役に就任。2012年4月に代表取締役に就任。2007年株式会社ビザインを取締役パートナーとして設立、2009年代表取締役就任。中小企業の友好的M&Aへの理解・普及活動、M&Aアドバイザー養成を手がける。専門分野は、ビジネス統計分析、マーケティング戦略とコーポレートファイナンス。

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