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いかに「ファクト」を意思決定に活かすか? ~情報はあるだけでは意味がない~ドラッカーの格言から学ぶマーケティング入門 第8回

4月からスタートいたしました、Bond-BBT MBAプログラム6期生の早嶋聡史さんによるオンライン勉強会「マーケティング入門」。
MBAを受講するなら最低限知っておきたいフレームワークや考え方をドラッカーの格言を引用しながら学ぶマーケティング入門講座です。
今回は、マーケティングの部隊でも重要な環境分析の裏付けについてです。いかにファクトを意思決定に活用するかについて考えていきます。

自分で現場へ出かけて行き、自分の目で見る。

主として日用雑貨や住宅施設に関係する商品などを取り扱う小売店であるホームセンターのクライアントと顧客分析を行ったことがあります。大手のように顧客データが整備されておらず、各店舗の取り組みは店長任せ。店長が独自にマーケティングを行っていたので、手始めにクレジットカードの情報など、全店共通で入手できる顧客データを横串にして全店舗のデータ分析を行いました。

結果、男性顧客の購入が圧倒数を占めていました。しかし実際に店舗を歩いて回ると女性顧客の割合が圧倒的に多いことに気が付きます。また、直接レジで支払いされている方を観察しても同様でした。そこで少し考えましたが理由は簡単でした。クレジットカードの名義は男性ですが、実際に購入している顧客は奥様だったのです。

ドラッカーは、「軍隊の指揮者は、現場からのリポートに依存することなく、自分で現場へ出かけて行き、自分の目で見る。」ということを言っています。2次データは昔と比較して簡単に手に入る時代になりました。そのようなデータはどうしても自分で統計処理をしていないため全てをファクトとして取り扱ってしまいます。しかし、そのデータの背景や取得方法を理解していないと完全にデータ分析者の主観が入り、ミスリードした分析結果になってしまいます。

「顧客にとっての価値を想像してはならない。直に聞かなければならない。」

別の事例をみてみましょう。企業が提供する何かしらの商品(製品・サービス)に不満を覚えた顧客の96%は何もしないというデータがあります。いわゆるサイレントと称される消費者行動です。企業は、自分たちの顧客が、何らかの不満を持っているとは考えません。満足度の調査には力を入れていますが、不満足を潰す動きには弱腰です。

ドラッカーは、「顧客にとっての価値を想像してはならない。直に聞かなければならない。」と言っています。満足だけではなく、実際の声として上がりにくい不満足にこそ注目して、工夫をして声をきくことが大切です。

顧客の声においても、多くの企業は、声の見える化に力を注いでいます。コールセンターを設置したり、アンケートボックスを提供したりして顧客の声を積極的に集めています。ある消費財メーカーではVOC(ボイスオブカスタマー)委員会を社内で組織化しました。その取り組みは、お客様相談室を設置して、顧客の声を積極的に集めていたのです。結果、多くの声が集まりましたが、経営改善につながる有効な情報は殆ど集まりません。

理由は「◯◯は美味しかった!」という声は沢山寄せられましたが、それ以上の本質的な問いをオペレータが深掘りすることなくお礼と共に終了という行動を繰り返したからです。形式的に声を聴くのではなく、コンタクトポイントでの声の集積は、その業務の中でも力があるヒトが担当しなければ本当の声を聴くことはできません。顧客はコミュニケーションの専門家ではないので本質を語ることはないのです。

マーケティングは見た目派手な印象がありますが、その華の部分を支える地道な環境分析にはあまり注目されません。さらに、実際の現場では、どうしても役割が細分化され、分析部隊は現場からも距離が遠くなってしまいがちです。また、一方で現場もスタッフ部門の頭脳部隊は顧客のデータ分析をしている専門部署なので初歩的なミスなどないと勘違いします。

ドラッカーは、市場の実体は市場に関する報告書などを信頼してはいけないとまで極言しています。マーケターや経営者にとって現場を自分の目でみて確かめることは今の時代だからこそ、なおさら重要になるのです。

MBAでは様々な科目を履修して学ぶと思います。できる限り企業に訪問して、実際の担当者の声を聞き、問題の本質を理解する勉強方法を身につけてください。各科目では、様々な課題やレポートが課せられます。単に単位を取得してMBAを修了しても実務に役に立たなければお飾りに過ぎませんからね。

次の回は、市場を分けてターゲットを見極める、STP分析について理解を深めていきます。

講師プロフィール

hayasima

早嶋 聡史 氏
株式会社ビズ・ナビ&カンパニー 代表取締役
株式会社ビザイン 代表取締役
一般社団法人 日本M&Aアドバイザー協会 理事

国立九州工業大学 情報工学部 機械システム工学科 卒業、オーストラリア ボンド大学 大学院 経営学修士課程(MBA) 修了。
横河電機株式会社において、R&D(研究開発部門)、海外マーケティングを経験後、2005年11月に株式会社ビズ・ナビ&カンパニーを設立し、マーケティング担当取締役に就任。2012年4月に代表取締役に就任。2007年株式会社ビザインを取締役パートナーとして設立、2009年代表取締役就任。中小企業の友好的M&Aへの理解・普及活動、M&Aアドバイザー養成を手がける。専門分野は、ビジネス統計分析、マーケティング戦略とコーポレートファイナンス。

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