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「何でもやりたい」は「何もできない」ということ。【ドラッカーの格言から学ぶマーケティング入門 第7回】

4月からスタートいたしました、Bond-BBT MBAプログラム6期生の早嶋聡史さんによるオンライン勉強会「マーケティング入門」。MBAを受講するなら最低限知っておきたいフレームワークや考え方をドラッカーの格言を引用しながら学ぶマーケティング入門講座です。今回は【「何でもやりたい」は「何もできない」ということ】というテーマでお届けします。これはいったいどういうことなのでしょうか?マーケティングなどに取り組んでいる際についつい陥りがちな落とし穴でもある本テーマ。ぜひご参考にされてください。

▼これまでの記事はこちら
第1回:顧客創造のために不可欠な「マーケティング」と「イノベーション」。
第2回:部分最適に陥るな!マーケティングプロセスをまず理解する。
第3回:企業の成長も衰退も定義次第。
第4回:顧客は製品・サービスを買っているのか?
第5回:あなたなら、リスク(機会と脅威)を予測しどう動くか?(前編)「マクロ分析とミクロ分析」
第6回:あなたなら、リスク(機会と脅威)を予測しどう動くか?(後編)「クロスSWOT分析」

あなたは何によって人に覚えられたいですか?

ドラッカーの著書である「非営利組織の経営」の中に「何によって覚えられたいか。」という記述があります。ドラッカーが13歳の時に宗教の先生から問いかけられた言葉です。宗教の先生は「答えられると思って聞いたわけではないよ。自分が50歳になっても答えられなかったら人生を無駄に過ごしたことになるよ。」と当時のドラッカーに伝えたそうです。

MBAプログラムでは、経営資源であるヒト、モノ、カネ、ジカンの使い方などといった知見を、あらゆる科目を通して徹底的に頭に叩き込みますが、それらの有限なリソースを最終的に何に活用するかは非常に重要です。マーケティングでもこの問いかけは重要です。

組織に限らずご自身のキャリアにおいてもこのことは言えるでしょう。オールラウンドな人であっても、何か特定の領域に集中投資して強みとなる力を身に付けていった方が成果につながる可能性も高まりますし、人を評価するまわりの人にも「〇〇ができる人」などのような印象に残る可能性も高まります。

ご自身のキャリアを磨き上げるために、MBA取得をお考えになられている方も多いかもしれません。明確な目的意識があって取得を目指されるのは素晴らしいことですが、一方で、もし現時点で「何となくMBAを受講してみよう」とお考えの方であっても問題はないと思います。2年から3年かけて自分の経験を体系化して、新しい知識を刷新する。その過程で自分が何のために受講しているかを考えながら自分の道を探すのもキャリアを磨いていく上では意味あるプロセスです。しかし、「修了してから今後MBAの活用方法を考えます」といったお考えなのだとしたら、宗教の先生の言葉がそのまま当てはまるかも知れません。果たしてその自己投資は、どれだけ意味のあること(成果)につながるのでしょうか。

選択と集中の大切さ

ドラッカーは何をするかということを重視しています。「いかなる企業も、多くの知識において同時に卓越することはできない。(創造する経営者)」「何を捨てるかを決めること(実践する経営者)」、等々のような記述も書籍の中で多く見られます。

仕事も経営も不思議とパレートの法則が当てはまります。いわゆる2:8の法則です。経済活動において、結果の大部分は、全体を構成する取り組みの一部分の要素が生み出すという仮説、経験則です。例えば、成果の8割は取り組んでいる行動の2割の活動で生み出している。顧客の2割で利益の8割を稼いでいるなどです。「何でもやりたい」と躍起になって手を出しても経営資源が拡散して思うような効果が出ないものです。

だからと言って、思いつきのひとつの取り組みを掘り下げるのでは考えが浅いとも言えます。事象に対して本質的な問題を明らかにした後、解決策の糸口に対して複数の解決策を考える。その後、何をするか明らかにして絞り込むことがポイントです。

MBAプログラムでは様々な思考方法やフレームワークを学びます。これらは覚えて終わりではありません。その思考方法やフレームワークが導き出された背景や事例を知り、リアルタイムな事象に置き換えて考えることで、活用の方法を見出し、自分のものにしていくことが初めてできます。また、一つの解決策に対しても戦略的自由度を高めるために、複数の解決策の方向性を見出します。この時のパターンや思考方法もMBAプログラムで学ぶ各科目がかなりヒントになります。

その後、最終的に「する」「しない」や複数の選択肢の中から「1つ選ぶ」「複数選ぶ」という選択を行うことになります。その場合は、筋道を立てて決定します。意思決定に関する情報や思考、感情などを論理的に整理します。筋道があるということは何らかの再現可能なルールが存在します。その場合、選択肢に対して評価を行う必要が出てきます。定性的な要因を定量化することはファイナンスが得意とする領域です。

一方、全てを論理的に決める対極に直感に委ねるという荒技もあります。HBRの研究データに「企業の管理職や経営者は成功の8割を直感や第六感に従う」という記述を読んだことがあります。脳の研究分野では直感を超論理思考と解釈してこれまでの経験や学習による蓄積を基に、いまの行動を解釈して脳が答えを出すという人もいます。

いずれにせよ「何でもやりたい」と思う気持ちを抑えて、「何を捨てるか」を真剣に考えることが大切です。これらはマーケティングではSTP戦略に通じるものがあります。STP戦略についてはまた次のコラムでご紹介していきます。

是非、MBAプログラムを修了したときに、ドラッカーの宗教の先生の問いに対して、自分なりの考えを言語化できるように取り組んでくださいね。

次の回は、「いかに「ファクト」を意思決定に活かすか?」、というテーマで環境分析や意思決定する際の情報の取り扱いや種類に対して理解を深めていきます。

講師プロフィール

hayasima

早嶋 聡史 氏
株式会社ビズ・ナビ&カンパニー 代表取締役
株式会社ビザイン 代表取締役
一般社団法人 日本M&Aアドバイザー協会 理事

国立九州工業大学 情報工学部 機械システム工学科 卒業、オーストラリア ボンド大学 大学院 経営学修士課程(MBA) 修了。
横河電機株式会社において、R&D(研究開発部門)、海外マーケティングを経験後、2005年11月に株式会社ビズ・ナビ&カンパニーを設立し、マーケティング担当取締役に就任。2012年4月に代表取締役に就任。2007年株式会社ビザインを取締役パートナーとして設立、2009年代表取締役就任。中小企業の友好的M&Aへの理解・普及活動、M&Aアドバイザー養成を手がける。専門分野は、ビジネス統計分析、マーケティング戦略とコーポレートファイナンス。

集中と選択という原理原則。(Bond-BBT MBA事務局より)今回の記事はいかがでしたでしょうか?

ビジネスに限らず何をするにしても共通して言うことができる「集中と選択」という原理原則。頭ではわかっていても、ついつい「やらないこと」を決めきれず物事を進めてしまうことがあるかもしれません。

普段仕事をしていると、「時間が足りない」「お金が足りない」「人が足りない」などのような声を聴かれることもあるかもしれません。たしかにそのような状況であるケースもありますが、実際は「集中と選択」をしきれておらず、集中すべき取り組みにリソースを集中させることができていないケースが多いのではないでしょうか。

時間やお金、そして人などのようなリソースは有限です。それをいかに活用して成果につなげるか。組織においても人においても、忘れてはならない大切なことですね。

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第1回:顧客創造のために不可欠な「マーケティング」と「イノベーション」。
第2回:部分最適に陥るな!マーケティングプロセスをまず理解する。
第3回:企業の成長も衰退も定義次第。
第4回:顧客は製品・サービスを買っているのか?
第5回:あなたなら、リスク(機会と脅威)を予測しどう動くか?(前編)「マクロ分析とミクロ分析」
第6回:あなたなら、リスク(機会と脅威)を予測しどう動くか?(後編)「クロスSWOT分析」

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