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もしも、あなたが「ゼンショーホールディングスの社長」ならば【RTOCS®】

「RTOCS®(Real Time Online Case Study)」をご存知でしょうか?「RTOCS®」とは、BOND-BBT MBAプログラムをBOND大学と共同で運営する株式会社ビジネス・ブレークスルーが独自に開発した教育メソッドです。国内外の経営者、リーダーが取り組んでいる現在進行形の課題をケースとして取り上げ、「自分がその組織のリーダーであればどのような決断を下すか」を経営者、リーダーの視点で考察し、「意思決定」に至る力を鍛錬。前例のない予測不可能な現代社会において時代の流れを読み取り、進むべき道を見極め、切り拓くことのできるビジネスリーダーの育成を目指しています。

本プログラムでは大前研一が担当する「戦略とイノベーション Part A(Strategy and Innovation Part A)」で取り組む「RTOCS®」。一部のケースが書籍化され、Amazon等で販売されています。

今回は、書籍版「RTOCS®」で取り上げられるケースの一部をご紹介していきたいと思います。1つのケースにおいても解説をすべてお見せすることができないのが残念ではありますが、「RTOCS®」の一端を垣間見ることができるのではないでしょうか。お時間があるときにぜひご覧ください。

今回ご紹介するケースは、ゼンショーホールディングスです。

あなたがゼンショーホールディングスの社長ならば、上場以来初の赤字決算となった業績を回復するためどのような戦略転換を図るか?

【BBT-Analyze】大前研一はこう考える~もしも私がゼンショーホールディングスの社長だったら~

1982年の創業以来、牛丼チェーン「すき家」を中核業態とするゼンショーはBSE問題発生後、業界全体が利益率の悪化に苦しむなか、果敢な出店攻勢で牛丼チェーン国内シェア5割を占めるに至ったが、無理な店舗展開は人件費にしわ寄せされ労務問題が顕在化している。また、M&Aによる規模拡大と多角化を進め、国内外食チェーンの売上高で日本マクドナルドに次ぐ業界2位に成長したが、規模拡大の効果は発揮されず利益は悪化している。同社成長の原動力であったM&Aと出店攻勢が破綻を来した今、利益回復のための戦略転換が課題となっている。

◆外食チェーン国内2位まで成長してきたゼンショー

#マクドナルドに迫る4000億規模の売上高

ゼンショーは、傘下全店売上高が4000億円規模を誇る外食チェーンです。これは国内外食チェーン業界において日本マクドナルドに次ぐ2位の規模となります。トップのマクドナルドは、食材の品質問題が尾を引き急速に売上を落としているので、2015年度はゼンショーが全店売上高ベースで国内トップになる見通しです。以下、国内外食チェーンの売上高ランキングのトップ10には、すかいらーく、コロワイド[i]と続き、日清医療食品[ii]、プレナス[iii]、モンテローザ[iv]や日本ケンタッキー・フライド・チキン・ホールディングスなどが入っています(図−1)。

[i] コロワイド:「甘太郎」「土間土間」「かまどか」などの居酒屋チェーンや「かっぱ寿司」ほか飲食チェーンを多数手がけるフードサービス会社。
[ii] 日清医療食品:病院・福祉施設、保育園等に給食サービスを提供する給食委託会社。
[iii] プレナス:持ち帰り弁当店「ほっともっと」のほか和食レストランなどを運営するフードサービス会社。
[iv] モンテローザ:「白木屋」「魚民」「笑笑」などの居酒屋チェーンを運営するフードサービス会社。

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◆ゼンショーの多角経営の実態

#牛丼からファミレス、回転寿司、うどん、ラーメン、コーヒーまで

ゼンショーの売上構成を見ると、外食事業のほか、食材の調達・製造・物流、流通小売(食品スーパー)まで展開しています。

外食事業はグループ売上の約3分の1を「すき家」「なか卯」の二つで展開している牛丼チェーンが占め、さらに約3分の1をファミレスの「ココス」、ステーキの「ビッグボーイ」など数種の形態を持つレストラン業態が占めています。そして、牛丼以外のファストフードにおいては、回転寿司「はま寿司」、うどん「久兵衛屋」「瀬戸うどん」、ラーメン「伝丸」、コーヒーショップ「モリバコーヒー」「カフェミラノ」があり、実に多様な業態を抱えていることがわかります(図−2)。

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#M&Aによる多角化戦略とその限界

ゼンショーの成長を支えてきた二つの原動力は、M&Aと「すき家」を中心とした直営店の出店攻勢です。M&Aは2000年以降、ほぼ毎年1社の勢いで行われており、事業の多角化と外食業態の多様化を進めてきました(図−3)。その狙いは、食材の調達から製造、物流、小売、外食サービスに至るフードビジネスのバリューチェーンを一貫して手がけることによる収益力の追求と、規模の経済性によるコストメリットの追求です。

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M&Aにより多角化を進めつつ増収を続ける一方で、営業利益及び純利益は乱高下しています。直近の2014年度は、米国で買収したレストラン[ⅴ]の撤退による特別損失を出しており、純利益で111億円の赤字となりました。営業利益を見ても、BSE問題による米国産牛肉禁輸[ⅵ]やリーマンショックなど随所で減益を繰り返しています。2011年以降は消費税増税による消費マインドの低迷、さらには円安による食材・エネルギーコストの上昇などが要因となり、急速に減益している状況です。このように減益の要因は様々ですが、総じてM&A戦略で意図した多角化による収益力強化と規模拡大によるコストメリットは、充分に発揮されているとはいえず、むしろコストの増加を招いているのが現状です(図-4)。

[ⅴ] 2004年、米国カリフォルニア州に100%出資子会社のゼンショー・アメリカ・コーポレーションを設立し「ココス」等のレストランを展開してきた。
[ⅵ] BSE問題による米国産牛肉禁輸:BSE=牛海綿状脳症という牛の疫病。2001年に日本で初めて同病に感染した牛が確認され、畜産農家のみならず食品スーパーや外食産業にも大きな影響を与えた。2003年には米国でBSEの発生が確認され、同国からの牛肉等の輸入が全面停止された。

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#M&Aによる多角化のツケで営業利益率が低迷

業態を多角化することで売上を伸ばし、連結売上高は“ひとり勝ち”のようにも見えます。しかし[図−5/牛丼大手3社の連結業績比較]が示すように、連結営業利益率においては“ひとり負け”といえるほど落ちているのです。他2社と比較すると、最も多角化を進めてきたゼンショーの利益率が最低の結果になっています。結局リスク分散のための業態多角化は、収益性の安定につながらなかったということになります。

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結局、M&A戦略は収益性の向上にはつながらず、財務体質の悪化を招きました(図−6)。牛丼チェーン大手3社を比較しても、ゼンショーの財務体質の悪化が表れています。まず際立つのは、自己資本率の低さです。おそらく、様々な投資銀行の勧めで「借りられるだけ借りてしまった」のではないかと推察できます。よって、当然のことながらD/Eレシオ[ⅶ]は高く、財務の健全性を表す指標の一つとして有利子負債/EBITDA[ⅷ]の値を見ても、その負債はEBITDAの5年から7年分程度です。致命的な借金を抱えているわけではありませんが、比較的穏健な戦略をとってきた吉野家や松屋に比べると良好とはいえません。

[ⅶ] D/Eレシオ:企業財務の健全性(安全性)を測る指標の一つ。企業の資金源泉のうち、負債が株主資本の何倍に当たるかを数値化。負債資本倍率とも呼ばれる。
[ⅷ] EBITDA:利払前・税引前・減価償却前利益。税や減価償却費を計上しないキャッシュベースの利益。

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◆BSE問題が引き金となり“限界”が見えてしまった牛丼

#牛丼市場シェアはゼンショーがトップ

次に、ゼンショーの増収を支えたもう一つの原動力である牛丼チェーンとその出店戦略について掘り下げましょう。[図−7/国内牛丼チェーンの売上高シェア]をご覧ください。牛丼といえば「吉野家」を想像する人も多いと思いますが、国内における牛丼チェーンの最大手は、シェア41.4%の「すき家」です。「なか卯」の8.5%と合わせると、国内シェアの約50%をゼンショーが占めています。「吉野家」は27.1%、「松屋」が20.4%。この数字から、「ゼンショーの牛丼」がどれほど大規模であるかがわかります。

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#高収益業態だった牛丼が薄利多売に

[図−8/国内牛丼の市場規模]を見ると、BSE問題を受けて米国産牛肉が禁輸となった後も市場規模・店舗数ともに成長を続けてきましたが、1店舗当たりの売上高はBSE問題前後で大幅に減少し、以降横ばいを続けているのが現状です。つまり、BSE問題以降ゼンショーのメイン業態である牛丼が、著しく収益性の悪い事業へと変わってしまったのです(図−9)。

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BSE問題が引き金となり、牛丼業態には“限界”が見えてしまいました。それを物語っているのが[図−10/吉野家の業態別売上高]です。牛丼の代名詞のような存在だった吉野家までもが、うどんの「はなまるうどん」やステーキレストラン「どん」などを買収し、牛丼業態のリスク分散として業態の多角化を図り始めたのです。

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◆見誤った“攻めの戦略”が多くの問題を招くことに

#BSE問題以降も続けた出店攻勢

牛丼大手3社の店舗数について見てみると、吉野家はBSE問題以降、比較的出店を抑えてきました。松屋も同様の戦略をとってきたといえます。しかし、ゼンショーは牛丼業態の収益性が悪化するなかでも「すき家」の出店を爆発的に進め、「なか卯」を含めると2014年には2500店舗以上にまで増やしています。その結果、コスト削減圧力が人件費にしわ寄せされ、労務問題が顕在化するようになりました(図−11)。

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#ワンオペが明るみに出てブラック企業イメージが浸透

昨今、新聞を賑わせたゼンショーの労務問題は、急速な出店攻勢によって発生した問題です。ゼンショーの顔とも呼べる「すき家」において、従業員が1名で店舗業務を担う、いわゆるワンオペ(ワン・オペレーション[ⅸ])が常態化していたことが発覚しました。このことは深刻な社会問題として捉えられ、瞬く間にブラック企業の烙印を押されるとともに強い批判を浴びました。現在、この問題の改善を進めていますが、解決のためには今後の人件費の増加は避けられません。

[ⅸ] ワン・オペレーション:人手不足や人件費削減などの理由から1人でシフトに入り業務を行うこと。すき家において、防犯上危険である深夜に長時間アルバイト1人に業務を行わせていたことが露呈し、この言葉が広く知られるようになった。

◆減少のファミレス、伸びるテイクアウト 明暗分かれる外食市場

#テイクアウトの市場規模に注目

牛丼以外の業態にも目を向けていきましょう。前述のとおり、ゼンショーは多業態でありファミレスとファストフードの二大業態を展開しています。[図−12/国内外食の業態別成長率と市場規模]を見ると、ファストフード市場は成長率も高く、市場規模も3.1兆円と悪くありません。一方で、ファミレス市場は成長率がマイナス16.4%と大きく下落し、市場規模も1.3兆円ほどと縮小トレンドにあり業態の苦しさが表れています。

注目すべきはテイクアウト市場です。国内の単身世帯増加を背景に成長している業態で、各業態の中で最も大きな市場規模を形成していますが、ゼンショーはこのテイクアウト市場に弱いのが現状です。

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#ファストフードでは回転寿司、うどん・そばが伸びている

成長市場であるファストフードにおいては、ゼンショーは牛丼、回転寿司、ラーメン、うどん・そばを持っています。なかでも興味深いのが回転寿司で、近年非常に伸びてきています。うどん・そばも堅調に成長を続けており、ラーメンは横ばい、牛丼は近年頭打ち状態で失速傾向にあるといえるでしょう(図−13)。

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各ケースの”今”について、どのような課題を見い出し、あなたは何を導き出しますか?(BOND-BBT MBA事務局より)
今回のケースをご覧になられて、皆様いかがでしたでしょうか?書籍からの転載ということもあり、最後の結論についてこの場でご紹介することができず心苦しいところではございますが、「RTOCS®」に取り組む際、私どもは「皆様ならどうするか?」という点を大切にしております。

大前研一が述べている解説が正解というわけではございません。あくまでも、論拠に基づいて考え抜いた“ひとつの解”です。その思考プロセスから考え方や視点などを学び、ご自身でその時々の“最適解”を導き出せる力を鍛えていっていただきたいと考えております。

上記のプロセスをご覧いただき、皆様でしたら最終的にどのような結論を導かれますでしょうか。ぜひ一度、お時間をとって考えてみてください。

そして、ご自身の考えと大前の考えを比較してさらに学びを深めたいとお考えの方は、よろしければぜひ書籍をご購入いただければと存じます。