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[IPO後] 調達した資金で自社ビルを建てるな!

「創業前~IPO後に大切にしておきたいこと」にフォーカスした、Bond-BBT MBAプログラム22期生の福田徹さんによる連載も第11回になりました。
今回は上場時の資金調達についてお話します。

さて、今回は、無事、株式上場を果たした直後の話です。

株式上場のことを別名IPOと言います。IPOとはInitial Public Offeringのことですね。初めて企業が公に自社株を募集することです。通常、株式上場の際には、「売出」と「公募」が行われます。売出は、株主が持っている株式を売ることです。創業者は創業者利益を得たり、今まで頑張ってきた役職員が上場まで保有していた株式を売却したりして売却益を得ます。したがって、売出の場合は、企業にはお金は入りません。入るのは、公募(増資)の方です。IPOの際に公募を行い、新株発行をしますと、その企業に資金が入ります。IPOの最大のメリットの一つは、この資金調達ということになります。もちろん、売出で、役職員が多額の株式の売却益を得て、辞めていくことももちろん注意しておくべきことです。最悪のケースは、社長も辞めてしまうこともあるのですが・・・

株式上場で調達する資金を何に使うかは非常に重要なことです。投資家としても自分の資金を無駄に使ってほしくはないし、上場審査をする証券会社もその会社は何のために上場するのか、調達した資金を何に使うのかは審査の重点項目です。私自身も、今、株式を公募される企業の審査をしているところです。その企業には、当然、資金調達の目的を細かく聞いています。証券取引所としても、企業の将来の企業価値向上のために取引所を運営しているわけですから、調達資金の行方は非常に気になります。上場資金の行方は、基本的には、投資家が納得できる内容であれば調達できます。それがたとえ、借入の返済や、将来のM&Aの準備資金のようにすぐに損益計算書に跳ね返ってこないような内容であっても、株式市場が納得すれば通ります。

さて、株式を上場した調達資金で自社ビルを建てることはどうでしょうか。どういう理由でも投資家が納得すれば、調達することが可能です。しかしながら、私の経験上、上場時の調達資金で自社ビルを建てた企業で、その後も継続的に発展していっている企業はほとんどありません。調達した資金である企業が上場後に、新本社ビルを建て、上場記念の盛大なパーティーを開催しました。もうその会社は存在しません。業界柄、時流を追いかける必要があったのかもしれませんが、上場したばかりの企業は、知名度をあげたり、マーケティングを行ったり、新規店舗を拡充したりメンテナンスをした方が業績向上にはよかったのかもしれません。私が経験した新社屋で成功している稀有な例は、ファルコホールディングスです。この企業は上場時には自社ビルを建てませんでした。私も上場時には毎月のようにお伺いしていたこの企業の本社は、本当にこれが上場企業の本社かと思われるほどかなり古く、木造で古き良き昭和を感じさせる少し込み入った構造の建物でした。また、最寄り駅からも少し歩かないといけない企業でした。しかしながら企業業績と、本社ビルは全く関係ありません。この企業はその後も継続的に企業業績を向上させ、その後、京都のど真ん中に自社ビルを建て、なお発展していっています。また、大阪にはコニシという上場会社があり、私が通っていた時の本社は非常に伝統的な木造建築物で交通にも至便な場所にある会社でした。当時は、従業員も増え、会議等は、近隣の会議室を借りないといけない程でした。調べてみると、この建物は今、重要文化財になっています。

これまで私がお伺いさせていただいた上場会社のほとんどが雑居ビルに入っています。自社ビルを持つことのメリットをよく考えてみましょう。ビルの管理、修繕・改良、空きスペースの効率的利用、スペースが足りなくなった場合の対処など本業以外に検討することが数多く出てきます。通常はあまり直接的に収益を生み出さない資産ですね。もちろんセキュリティや愛社精神の醸成といった側面では役に立つことも多いことは確かです。その企業が上場の際に、何を重要として資金調達するかということです。上場時には、今後の成長を見込んで上場し、資金調達を行い、一般個人投資家その後売買に参加します。株主、投資家のことを念頭に置いて一般の方から資金を集めないといけません。

さて、自社ビル購入に限らず、上場時の資金調達の目的を目論見書等でいろいろ見てみると、これで成長が続くのかと、一般個人投資家を悩ませる資金調達としてどのようなものがあるでしょう。一つは、M&Aのためです。将来のM&Aのために資金調達をするとしてもそういう案件がなければ、永遠に現金として企業に残しておくのでしょうか。良いM&A案件が飛び込んできた場合は、それなりに資金調達方法があるものです。また外食業界の新規店舗拡大というのもあまりいただけません。つまり、外食業界は新店を出せば、ほぼ確実に売上が上がります。しかしながら、そういった場合、表面上は売上が上がるだけで、既存店舗がないがしろになり、利益が上がらないケースの方が多いようです。上場時の資金調達には、投資家にはきちんとストーリーを作成して説明することが必要ですね。

講師プロフィール

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福田 徹 氏
株式会社福田総合研究所 代表取締役社長
1984年3月早稲田大学卒業、豪州Bond大学大学院MBA取得。野村證券、ソニー生命(MDRT)を経て、2005年福田総合研究所設立。その間、証券英国現地法人にて、サッチャー政権の英国ビッグバン対応業務を行う。國學院大學で、財務分析、証券分析、関東学院大学でFP、武蔵大学で金融数学を講義、経済学部金融学科でファイナンス、ケーススタディーのゼミを担当。豪州のマードック大学ではマーケティングの客員講師。上場会社の社外取締役と社外監査役を兼務。中小企業から1部上場企業まで、各社のテーマに応じてコンサルティングを行っている。大手証券、地銀、地銀協、生保など多くの企業で研修も実施。

主な著書:「なぜ、会社の資金繰りが悪くなったのか?」(税務経理協会)、CFO協会のIRテキストブック監修、「上場企業、上場準備企業のIR担当者向けテキスト」(電子書籍)、『「株式上場」が頭をよぎった経営者が読むIPO入門』(Amazon Kindle)。論文「証券アナリストとIRオフィサーの関係性について」。

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