大量生産により市場はモノであふれており、小売業も製品からサービスへ、新しい切り口が必要となっている。重要なのは顧客とのエンゲージメントであり、トライアルはテクノロジーよりオペレーションを重視することに強みがあると、亀田氏は言う。ポイントは、顧客データを集めてコミュニケーションにどう生かすか。そこで開発したのが「smart shopping cart」というセルフレジ付カートだ。
買う順番や買わなかったもの、回遊の順番等のデータを取得し利用者の行動を分析、店内サイネージやカートへの動画配信によって行動変容を促す。店舗機能の改善も「smart store」として実験を開始した。顧客に最高の体験を提供するために、レジ待ちなし、キャッシュレス決済、お得な情報等を提供し、働く環境はAIによって作業の効率化を、店舗側にはレジ決済や発註等を自動化してコスト削減を行う。また、売り場面積をMEGAから小型化まで細分化し、各種小売業と提携しながら業界全体を効率化、いずれは小売業のインフラ会社になることを目指している。
トライアルはリテールAI研究会という組織とも協力して、オープンな場の分科会を企画し、流通も含めた各種小売業の参加を呼びかけている。従来の日本は、わが社的な考えからオープンイノベーションには消極的であったが、最近はローソン、ツルハドラッグ等、大手企業の参加が増えており、横展開が広がっているという。
次のステップでは宮若市、九州大学、トライアル、市民が連携し、仕事と生活の快適な社会「smart town」構想を計画、廃校や産直市場、道の駅等と協力しながら一部実証実験が始まっている。市内に社内のエンジニアが実際に住み、周辺を巻き込みながら働き方、ライフスタイルをリノベーションするチャレンジだ。
トライアルは自社で思考速度の速い外国人や学生、高齢者を含む多くのエンジニアを抱え、試行錯誤と改善を重ねながら好循環をつくっている。リアルなサービスを持つ産業にとって本講義は学ぶ点が多く、ぜひ挑戦すべき試みである。