第1次世界大戦さなかの1916年、アラブ人主体の中東地域を長年にわたって支配してきたオスマン帝国(トルコ)を、イギリスとフランス、ロシアで分割する密約が結ばれた。英の中東専門家と仏外交官の名を取って「サイクス・ピコ協定」と呼ばれる。複雑に入り乱れる民族や宗教派閥をなんら考慮せず、ざっと定規で引いたような国境線は、100年後のこんにちまで中東混迷の元凶となっている。シリーズ第9回目は、旧宗主国トルコと分化された側のシリアにフォーカスする。
ドイツに加担し第1次世界大戦で負けオスマン帝国が崩壊した後、軍人ケマルがトルコ共和国を樹立。アラビア文字の廃止など西欧化を進め、ロシア革命に対する「防波堤」と見込んで欧米が支援。NATO加盟で米軍に基地を提供するも、米国はトルコ内クルド人独立派を援助。反発したエルドワン大統領はイスラムへ回帰し、ロシアに急接近している。 イスラム教スンナ派が大多数を占めるシリアは、地中海沿いの狭い一画に偏在するシーア派系アラウィ派が主権を握る。第2次世界大戦後フランスの影響力が弱まると、南下政策を希求するソ連が侵入。アラウィ派は社会主義と国境線を撤廃したアラブ統一を掲げてバース党を結成。第2次世界大戦後、中東諸国に親ソ政権が林立。シリアでは、バース党内クーデターからアサド家の独裁がスタート。1990年代に入ると、ソ連のゴルバチョフ大統領が冷戦終結を急いで親ソ政権国家を見捨てたことで、イラクに対する湾岸戦争、リビア空爆、大義なきイラク戦争へと突き進んだ。 21世紀、政府の情報統制が携帯電話やSNSの急速な普及により無力化する中、チュニジアの反政府運動が各国に拡散。米国のソロス財団とオバマ政権が援助する「アラブの春」により、親ロ政権が軒並み崩壊した。ロシアが援護するアサド政権と、米国がバックに付く反政府組織が激突するシリア内戦は、旧フセイン勢力に過激派が流入して結成されたIS(イスラム国)が出現してさらに泥沼化。2015年、プーチンが軍事介入して拠点を空爆したが、プロパガンダにたける同組織に魅入られた自称ISは、今も世界中で増殖している。結局、得をしたのはプーチンのロシア。アメリカは、オバマの失策で中東を引っかき回し、トルコまで敵に回した。トランプ政権交代となれば、同地域はまたもやカオスに逆戻りしかねないだろう。近著となる8月発売の『米中激突の地政学』も参考にされたい。
スライド 時間 タイトル 00: 00: 00 地政学入門#9 トルコとシリア 00: 00: 47 資料(1) 00: 01: 18 第9回 トルコとシリア 00: 05: 02 イギリス・ロシアの干渉 00: 11: 32 第一次世界大戦でアラブは独立するが・・・ 00: 16: 37 シリアの国内事情 00: 21: 33 第二次大戦後 米ソ冷戦に巻き込まれる 00: 24: 24 ソ連崩壊、アラブ親ソ政権の危機 00: 26: 38 21世紀、アラブの春で親ロシア政権が崩壊 00: 34: 20 シリア内戦とIS(イスラム国)の台頭 00: 38: 39 クルド人民兵 vs IS(イスラム国) 00: 42: 14 トルコの反米化、ロシアへの接近 00: 46: 05 資料(2) 00: 51: 16 第9回 トルコとシリア まとめ