16世紀のスペイン無敵艦隊撃沈、19世紀には海路を渇望するロシアに対し徹底的な封じ込め作戦展開と、七つの海を支配してきた大英帝国だが、20世紀に入り弱体化した。発端はヒトラーが火種となった第2次世界大戦。独軍の無差別空爆で敗色濃厚となる中、独ソ開戦、日米開戦と各所に飛び火し、ソ連やアメリカが英国側に立って参戦したことでドイツ側が降伏。勝ったものの疲弊したイギリスは、自国製品の売り先だった植民地群の独立を阻止できず、その隙に米国海軍が台頭。ソ連は東欧諸国を共産化。アメリカとの軍事同盟(NATO)で対抗するも、親ソ政権下のエジプトで要衝となるスエズ運河を奪還された。
同じく植民地を失い危機感を募らせたフランスは、宿敵西独との和解を進め、市場統合に活路を見いだすべく6カ国でEC(欧州共同体)を結成。イギリスは反発して独自策に走るが、産業衰退や失業者増大に歯止めがかからず1973年に加盟した。冷戦終結と東西ドイツ統一を受け、陣容拡大とさらなる一体化を目指したEUが発足。一国強大化けん制の狙いとは裏腹に、共通通貨ユーロの導入で工業国ドイツが一人勝ち。英国は自国のポンドを死守し、急増する移民受け入れによる負担増で独のメルケル政権と対立した。当時首相のキャメロンは、交渉カード目的で国民投票を実施。まさかの離脱派勝利に与党内が紛糾。EUとの条件闘争も決裂。後任の離脱派ジョンソン政権が総選挙で圧勝し、正式離脱を表明すると、残留派優勢のスコットランドや北アイルランドで分離独立問題が勃発した。
この先、中国に急接近するEUは、独主導のランドパワー化に拍車がかかるだろう。欧州で孤立するイギリスは、米国が見限ったTPP(環太平洋経済連携協定)と手を結び、シーパワーの新たな一大勢力となるべく本領を発揮するのが現実解か。核として日英同盟の復活もあり得る。21世紀は、地政学的色分けがますます鮮明になってくるようだ。