イギリス地政学の祖H・マッキンダーは、ユーラシア大陸を「世界島」と呼び、島を制したランドパワーが世界を牛耳ると危機感をつのらせた。島の奥地に位置するハートランド(ロシア)は攻め込みがたく、かのナポレオンをも退ける。ならば、敵が海側に出てこられないよう力で封じ込めよと企んだのが、1800年代の英国における世界戦略だ。
地政学では、地球上にさまざまある国の特徴を大きく二つに分ける。一つはランドパワー。内陸に位置し農業が主たる産業の国では、河川を利用した灌漑事業が必須になる。中央が土地を支配し、統制経済で専制的な官僚国家となっていった大陸国家だ。ドイツの社会学者K・ウィットフォーゲルは、東洋的専制国家論を説いた。土地の国有化と富の再配分によるアジア的産業様式は、歴代王朝が受け継ぎ、社会主義革命後の政権も継承。ソ連の他、戦後共産化した中国、北朝鮮、東欧・アラブ諸国もみなランドパワーに当たる。
相対するのはシーパワー。長い海岸線を生かした自由な交易で、経済基盤をつくり上げ商業国家となっていった海洋国家だ。民需が支える市場メカニズムで動き、古くはギリシャ人、フェニキア人、近代ではポルトガル、オランダ、イギリスが覇権を握った。米国海軍の戦略家A・マハンは、平穏なカナダと弱腰のメキシコを南北に持ち、東西に大海を抱えたアメリカのシーパワー台頭を先導。同国はパナマ運河の建設で東海岸から太平洋への道を開き、ハワイ、グアム、フィリピンと燃料補給地になるシーレーンを確保していった。
季候条件を呪っても、隣人に嫌気がさしても、国は転居できない。ランドパワーとシーパワー、自国がどちらに属するかを理解しないと、内陸の満州をわが物にしようとした日本軍の愚を犯す。地政学的見地に立てば、恒久である地理的要件から未来予測がおおむね可能となり、国益のためにはどこと手を組むべきかが面白いように見えてくる。