創業80年の矢崎グループは、BtoBの生活インフラやエネルギー関連事業を柱として売上高約2兆円。1961年より海外展開をスタート、現在45の国と地域に143法人、従業員は約25万人、うち日本人は2万人弱を占める。「社会から必要とされる企業」「世界とともにある企業」を社是とし、途上国に展開する企業としての社会責任を自覚。製品製造地ではなく、BtoC市場と捉え直しBOP(低所得層対象)ビジネスに参入した。
下痢リスクの高い国とグループ拠点が重なることに着目し、選んだのはインドネシア。低い衛生意識と不十分な対策から、下痢罹患者は239万人に上る。飲み水が悪いのではなく、高価なため、食器洗いや手洗いに手近な汚水を使う生活環境全体が要因となっている。現地事情を勘案し、母親や子どもたちへの衛生教育の提供と、安価で便利な除菌水スプレーの開発販売で解決に着手した。下痢のメカニズムを伝える知識学習から行動の変化を促し、衛生観念が根付くことで大腸菌減少を数値化、ランダム化比較試験で評価を行う。
ヒト・モノ・カネがそろう大企業がイノベーションの創出で苦戦する中、矢崎エナジーシステム社が成功しているのはテーマ(大義名分)、プロセス(仕組み)、マインド(想い)が三位一体でつながったこと。概念に共感する地元パートナーと協業し、デザイン思考(人中心のPDCA)を何度も回しニーズを把握したこと。加えて、担当者は現地へ行くたびにおなかを壊し、必要性を痛感したことも熱意に拍車がかかったらしい。
保健衛生と水に関するゴールは、世界の何十億人もが直面する問題故にビッグチャンスでもある。何よりも鍵を握るのが教育の普及だ。一企業だけではなく、他社とどううまく連携していくかも今後の成長を左右する。慈善活動ではなく経営として堅実に成立させることで、持続可能な社会課題解決型ビジネスとして大きく発展する可能性が高まっていく。