鍵本氏は臨床現場で治せなかった3人の患者への悔しい思いから医薬品開発を決意し、2011年、ヘリオスを設立。同社の核である細胞を用いた治療研究は、体性幹細胞、ノーベル賞の山中伸弥教授が発明したiPS細胞、さらに進化した3次元臓器の3段階がある。体性幹細胞の適用疾患は脳梗塞で、骨髄由来の幹細胞を取り出し患者へ移植、臨床実験では脳梗塞発症後36時間までの治療で効果が得られている。
現在、米国アサシス社とライセンス契約を結び3年後に認証予定だが、日本には脳梗塞患者が約30万人と多く、医療費抑制のためにも認証が待たれる。
iPS細胞を使った治療は、目的とする細胞を1種類、iPS細胞から「分化誘導」というプロセスでつくり、損傷部位に置き換える。体性幹細胞は脳梗塞のように短期間で起こる疾患が対象、iPS細胞は長期間の疾患に適用する。例えば加齢黄斑変性のように、網膜色素上皮の変性が少しずつ悪化した場合、iPS細胞を網膜に移植すると、薬投与と違って再発もなく視力の維持が続き、QOL向上につながるという。3次元臓器は3種類の細胞を混ぜ、肝臓等の高機能な「臓器の目」をつくる技術だ。肝臓なら肝臓前駆細胞等、三つの細胞から肝臓原基をつくり出し、移植後は自ら血流を呼び込み臓器を再生していく。認証はiPSが3年、3次元臓器は6年後の予定だ。
ヘリオスは起業時に多方面とアライアンスを結び、共同研究をしている。その一つである大日本住友製薬の木村徹氏は、低分子薬品の限界や臓器移植の課題がある中、細胞移植技術は整っており実現は目の前に来ていると言う。鍵本氏は、再生医療等製品実用化は国の期待値も高く、大幅な規制緩和の法整備がされたので、高齢化と医療費問題解決のために日本初の新事業をつくりたいとのこと。講師は、再生医療は患者へのメリットが大きいが、臓器原基等をプラットフォーム技術として広げられるかが課題だと説明し、米国海軍の60%理論40%現状把握の思想を参考に、行動タイミングが重要と最後を結んだ。