AOI TYO Holdings株式会社は、日本における大手CM制作会社2社が経営統合してできた会社である。現在、CMにおいては国内シェアトップであり、その他にも、映画・ドラマ、VR、ネット動画などの領域にも進出している。
同社が主導するCreative Genome Projectは、受け手の読後感=意識(気分、感情)は、CM内のどんな要素によって引き起こされるのかを、科学的に解析しようとする試みである。
同プロジェクトでは、まずテレビCMを分節化し、独自の成分定義(タグ付け)を行うことで、データベースを作る。たとえば、コミュニケーションコンセプト(回復・流転・妨害)、手法(擬人化・対比・歌いこみ)、トーン(アクティブ・シュール・チープ)、テンション、設定(日常寸劇・紀行・内面対話劇)、表現モチーフ(親子愛・出世)など細かくタグ付けする。さらに受け手の読後感(かっこいい、スカッとする、美しい、モヤモヤする、癒し、幸せそう、懐かしいなど)を20タイプ程度に類型化する。その上で、CMの成分と受け手の読後感の関係を解析する。
このプロジェクトの研究価値として
(1)既存形式知の発見 これまで蓄積されてきたテレビCMの基本的手法(コンセプト、物語技法、映像技法、トーン等)をパターン化し、共通言語をもって把握することができる。
(2)新たなストーリーテリングの仮説・発見 基本的手法のパラメータを入れ替えたり、タグを結合したりすることで新たなストーリーテリングを生み出すことができる。
(3)新たな読後感の仮定・発見 コンテンツを写し鏡として読後感のバリエーションを細かく規定できる。さらには、全く新しい読後感を想起させる。
これはまさに、広告に止まらず、コミュニケーションそのものを科学的に分析する試みであり、これまであまりなされてこなかったものである。この研究の中から、日本独自のコミュニケーション手法が生まれてくることを期待したい。