経営を成功させるには、情報と金融とマーケティングを融合させることが欠かせない。行動経済学は日常生活における身近な経済行動について心理学を交えて分析するもので、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンやリチャード・セイラーらにより確立されてきた。景気が悪化して数量増加が見込めなければ1個当たりの単価を上げるしかないが、中身を減らす「実質値上げ」の方が刺激が弱く、消費者の怒りを抑えられるというのも一例だ。
商売は、1個当たりの利益を薄くして積み上げるか、積み上げが少なくても1個当たりの利益を厚くして利益増を図るかの二択である。日本では原材料費や労務費等、かかった経費に利益を上乗せするコストプライシングで売価を算出、「よいものをより安く」売る戦略が値下げ競争を生んできた。欧米では先に決めた売価から利益を引いたものを経費とするバリュープライシングが始まり、「よいものをより高く」売ろうという方向に向かっている。日本も欧米に倣い、限界利益を高め、もうけを大きくすることで従業員が幸せになるという考え方にシフトする必要がある。
東京でブレークした飲食店「俺のイタリアン」は大阪に出店する際、原価3千円のメニューを千円で売り出すとSNSでも広まり、大ブームとなった。実は限定20食で1日4万円の赤字となるが、広告宣伝費と考えれば安いもの。同じ絵でも額縁を変えると違う絵に見えるといった心理作用を効果的に使う。アンカリングとは、目立つところにわざと不利な情報を与え、「今だけ」といった希少性を付加して判断を誘導すること。お得感を演出したメニューを上手につくり、高い方を選ばせる。人間は得する喜びより損する悲しみの方が倍以上大きいため、無意識に損失を避ける行動を取る。メリットを強調するより、困り事を回避できる点をアピールする方が顧客の心に刺さり購買につながりやすい。今後は心理学だけに限らず、さまざまな分野と会計をマーケティング的な視点で活用していくのが会計の賢い使い方となる。