2014年現在、米国の名目GDPは約17兆ドルで、世界構成比22%強は第1位であるが、株式市場の時価総額合計は20兆ドルを超え、世界市場の実に44%を占めている。世界で突出する米国金融市場から退出を迫られればグローバルな経済活動はもはや不可能だ。 米国は、多大な影響力を武器に、基軸通貨たるドル建てか、あるいは米国系の金融機関を経由する世界中の取引に対して、米国が制定した規制ルールを展開することを国家戦略と位置付ける。1929年の大恐慌時から金融規制強化の方向に軸足を移し、2001年の同時多発テロで米国金融機関がテロ資金洗浄に使われたことが明らかになると、さらに規制を強めた。2000年代には、IT企業株の暴落や、米証券リーマン・ブラザース破綻を発端とした2度にわたる米国発の世界金融不安を招いたことを教訓に、予防と抑止を目指して懲罰的な高額制裁金を科す規制の導入に至る。金融安定化理事会(FSB)や、バーゼル銀行監督委員会(BCBS)、G20の場など、あらゆる機会を通じて政策の徹底を図っている。 仏金融大手BNPパリバが2014年、米国が経済制裁対象にしている国へ不正送金したとして、1兆円に上る制裁金を科されたのは象徴的である一方、米国内金融機関も海外以上に多額の制裁金を科されている事実にも目を向けたい。北朝鮮への金融制裁が想定以上の効果を上げると、軍事費増大に負担感を増す米国は、経済制裁が軍事的手段を代替する側面にも注目するようになった。米国の法体系は、日本や欧州などのように、損害賠償は民事責任、制裁は刑事責任と分けず、損害賠償に制裁を同時に加える点に大きな特徴がある。 O.J.シンプソンというスターフットボール選手を巡る殺人事件では、刑事裁判は無罪となるが、民事裁判では巨額の損害賠償の支払いを命ずる判決が下る。民事責任を認める証拠の確度は、刑事責任ほど厳密さを要求されない。米国は政府機関による民事訴訟も活発であることも踏まえ、米国独特の法制度と金融制度をよく理解することが重要だ。
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