広告の種類が多様化している現代、ユーザーの記憶に残るためには余程のインパクトが必要となる。最新のテクノロジーを使った広告表現が生まれる要因の一つがそこにある。ただし、広告の役割は企業イメージを上げること、ユーザーに購買行動をとってもらうことだけではない。最新のテクノロジーを使った広告表現と企業のブランドづくりの可能性を株式会社電通で初めて「クリエイティブ・テクノロジスト」の肩書を持つことになった菅野薫氏に聞く。
広告をとりまく環境は大きく変化している。広告主である企業にとっては、競争環境が激しく、かつ社内での意思決定のための要素も複雑化している。コミュニケーション手段は多様化しており、コミュニケーション手法も進化している。広告主である企業とすれば、目標さえ達成できれば手段や手法は問わないというところも多いが、一部の先進的な企業では、最新のテクノロジーに対応しようとしている。 広告は、かつてことばとデザインさえあれば成立するものだった。が、現在は、そこにテクノロジーとストラテジーの要素が必要となっている。「Art,Copy&Code」が、これからのキーワードである。既に欧米では普遍的な概念であり、グーグルもこの概念を標榜している。 テクノロジーに縛られると目標を見失うとよく言われるが、実際には「手段の目的化もある」のである。シリコンバレーの先進的な企業やグーグルの例を持ち出すまでもなく、技術を使いこなせるオタクのような人々が、新しい価値を生み出していく場合もある。 菅野氏のいうクリエイティブとテクノロジーの融合とは、今までなかった「技術」ではなく、今までなかった「技術の使い方」を生み出すものである。 例えば菅野氏は、ホンダと組んで、カーナビ技術の新しい使い方を作り上げた。東日本大震災の時、ホンダのカーナビを搭載した自動車がどの道路を通行しているかを集計し、実際に通行できる道路地図をリアルタイムで作成し公開した。この試みは、グーグルをはじめ、多くの企業のサービスに採り上げられ、「購買行動を促すことではなく、企業の信頼性を高めるということで、広告の本来の役割を果たした」と高く評価された。 あるいはロードムービーという動画を撮影するためのスマホアプリを開発提供することで、生活に密着した新たな価値を提案している。 技術の進化はこれからも止まらないので、ますますクリエイティブ・テクノロジストの仕事は重要になってくるだろう。大胆に最新の技術を使って、新たな広告の価値を作ってもらいたい。