経営者の判断は9割が好き嫌いで決まっている。好きこそものの上手なれ。これこそが仕事をするうえで最強のロジック、原点との持論を持つ楠木氏が、経営者にものの好き嫌いを聞くことで、成功の理由や経営スタイルを掘り下げていこうという当シリーズ。今回は400メートルハードル日本記録保持者の元プロ陸上選手、為末大氏をゲストに迎える。自分を見つめて思索し競技に打ち込む独自のスタイルから、走る哲学者の異名を持つ同氏、好き嫌いから何が見えてくるか楽しみだ。
広島出身の為末氏は、2002年大学卒業後、大阪ガスに就職するが、2003年にプロ陸上選手転向。2001年、2005年と世界陸上で銅メダル獲得。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場後、2012年現役引退。現在はスポーツコメンテーターとしてSNSを通じた発信や執筆、スポーツ選手のセカンドキャリア支援など、幅広く活動している。 子どものころから読書好きだったが、断トツに走るのが速かった同氏は、好きも嫌いもなく単に向いているからという理由で中学から陸上競技に進んだ。短距離100メートルを主戦場にしていたが、世界を前にし、単純な身体能力ではかなわなくとも技術的な部分があれば勝てる可能性を感じ、400メートルハードルに転向した。 嫌いなのは、「期待しています」と言われること。人に指示されること。高校時代、人に考えを押し付けられるより自分で試行錯誤していく方が向いていると気付き、以来、日本代表レベルにもかかわらずコーチを置かず競技に取り組んできた。 好きなのは、枠のない自由さを感じるカオス。自分の体を使って検証する行為。サッカーなどのグループ競技と違い、基本的に一人で行う陸上はルールが明確なうえタイム等で評価がしやすく、結果が見えやすい。考えることと、その発信をすることも好きだ。インターネット新聞「ハフィントンポスト」上での議論を『AERA』に連載する「為末大×AERA白熱ウェブ」や、ウェブコミュニティー「為末大学」など、スポーツと社会の関係、自分を成長させる考え方などを人々と語り合う場を設けている。 3度の五輪で400メートルハードルを極めた同氏の次なる目標は、アスリートの起業家育成だ。目的志向型が多いスポーツ選手は、やり方さえ習得すれば、社会にさまざまな価値を生み出すよき人材となれる。セカンドキャリアの充実を応援していきたいと語った。