経営者にインタビューすると「良し悪し」に関する話をされることが多いが、「好き嫌い」を聞いた方が、経営者の本音を知ることができるのではないだろうか。楠木建が大好きだというこの対談シリーズは、優れた経営者やリーダーに「好き嫌い」だけについて聞くことで、経営において最も大事なことに迫ろうとするものである。今回のゲストは、日本のバイアウトの第一人者であり、日本型投資ファンドであるインテグラルの代表取締役佐山展生氏である。
LBOもしくはMBOと呼ばれるファンドは、企業買収、合併、事業再生などの機会に資金を提供し、活動を支援して企業価値を上げることで投資収益を手にしている。アメリカでは、1970年代から80年代にかけてファンドによる財務目的の企業買収が活発化したという経緯があるが、インテグラ株式会社は日本流の「ハートのある投資」を掲げ、金儲けを目的とするのではなく、いい会社を作ることを目的とし、結果として投資家にリターンすることを目指している。 だから同社は、短期的に儲けるだけではなく、投資先が望むなら長期的にとことん付き合うことも辞さない。 そもそも佐山氏は「お金」を第一義にすることが嫌いである。これは業界としては珍しいのかも知れない。佐山氏は、帝人というメーカーでエンジニアから社会人人生をスタートさせた。最初に、工場の三交代勤務を3年間続けた経験が身に沁みついており、ものを作るということがいかに地道で大変なことかを知っているのである。 佐山氏は、大株主であっても、経営者であっても、株主風を吹かせたり、偉そうにしたりする人が嫌いである。さらに上を目指す人は決して偉そうな態度はとらない。中途半端な人が偉そうにしているのである。 逆に好きなことは挑戦である。優れた経営者は一様に、せっかちで公私一体であるが、それも挑戦をし続ける人の特徴だと思っている。 また何事もシンプルにすることが好きである。金融の世界でも難しいことを複雑に言う人が少なくないが、「要するに」何かを聞いていけば、たいていはシンプルにできる。採用においても、シンプルに「いい人」をとるようにしている。イメージ重視で、第一印象で決めると間違うことが少ないという。 最近は若い世代とも付き合うことが多いという。若い人にアドバイスするならば、人生は自作自演のドラマなのだから、他人のマネをするだけではなく、自分でしっかりと作ってほしいと言いたい。佐山氏はまさに自分独自の道を生きてきたという自負がある。