関橋氏がブランディングを担当した当時、キットカットは少子高齢化が進む日本市場の中でじり貧の状況にあった。
「サクっと食べられる」という機能価値だけで、その状況を打開することは難しく、ブランディングのチームは新たな価値をつくる必要性を迫られた。
のちに「受検のお守り」としての地位を確立するに至るキットカットの新たな価値発見は、ターゲットの見直しから始まった。
主要な顧客層であった中高生、20代OLの中でも、移り気なOL層ではなく、女子高生のインサイトを徹底的に調べ上げた。
女子高生のインサイトからわかったことは、彼女たちは非常なストレスを抱えている、ということ。
もしも、キットカットがこのストレスを緩和するができれば、彼女たちにとって不可欠なブランドとなる、という確信が生まれた。
彼女たちの最大のストレスは、勉強(受検)と恋愛。
関橋氏のチームは、
これまでの「さくっと食べて休憩」という機能価値から派生した「ストレスからの解放」という情緒価値を伝えることに集中して、
ブランド・コミュニケーションを展開した。
その作業のなかで、幸運にも、九州の高校生のあいだで、
博多弁で「必ず勝つ」という意味の「きっと勝っと」と「キットカット」がかけ言葉になって、受験のお守りになっていることを知り、これを活用することを思いつく。
しかし、単なるダジャレだけで成功したわけではない。
関橋氏は、コミュニケーションの方法に拘った。
クライアント(メーカー)が直接、受験のお守りとしてのキットカットを押し付けるのではなく、
受験生を応援する第三者を通じて、「受験のストレスから解放してあげる」というメッセージを伝えたのだ。
具体的には、受験生が泊まるホテルマン、商店街、受験会場に向かうタクシーがメーカーに代わって情緒価値を伝えた。
その後も「受験生を応援する」というブランドの目的に賛同する人たちを巻き込み、
JR東日本、フリーペーパーなどに波及していった。
満開の桜を外装にあしらった車内に掲げられた受験生への応援メッセージに見入っていたのは社会人。
彼ら・彼女らも「元」受験生。
一見狭く映る受験生というターゲットも実は意外とすそ野が広い。
こうした活動は、朝日新聞の「天声人語」、さらにはキットカット発祥の地、イギリスBBCのサイトで紹介され、
最近ではマーケティング第一人者のフィリップ・コトラー氏の著書『マーケティング原理』でとり上げられるに至った。
キットカットによって、ブランドの新たな可能性に触れた関橋氏は「ブランドの最終的なゴールは社会性を持つことではないか」と語る。
モノがあふれた時代だからこそ、声高に綺麗事を言えるブランドが求められているのだ。
使いでがあり、人の役に立ってこそ、人々の感情に「好き」をつくり、長きにわたって支持され、愛される商品となる。