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Vol.23 もしも、あなたが「次期イギリス首相」ならば

2016年9月16日発売の「BBT Real Time Online Case Study」 Vol.23には、以下の2本が収録されています。今回はCaseStudy1「あなたが次期イギリス首相ならば」の一部を公開いたします。

Web用表紙画像

 

│CaseStudy1│
あなたが次期イギリス首相ならば、
EU離脱後のイギリスをどのように成長させるか?

 

│CaseStudy2│
あなたが「メディアテック(MediaTek)の会長」ならば、
大幅な減益に直面した今、いかなる戦略によってこの難局を乗り切るか?

 

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■あなたが「次期イギリス首相」ならばどうするか?

QUESTION:今回のリアルタイムケース

あなたが次期イギリス首相ならば、
EU離脱後のイギリスをどのように成長させるか?

 

【BBT-Analyze】大前研一はこう考える~もしも私が次期イギリス首相ならば~

大前の考える今回のケースにおける課題とは

2016年6月、イギリスは国民投票でEUからの離脱を選択した。離脱を支持したのは主として高齢者や低所得層であり、若い世代や産業界には残留支持が多かった。第二次世界大戦後、低迷していたイギリス経済がここまで持ち直したのは、EUに加盟しながら通貨や移動の独立性を保ち、対内投資の呼び込みに成功したことが大きな要因である。ドイツをはじめとするEU加盟国は、イギリスに対し、EU離脱後はこれまでのような「いいとこ取り」は許さないという厳しい姿勢を明らかにしている。このような状況下で、今後いかにして経済成長を続けることができるかが大きな課題となる。

 

※本解説は2016/7/3 BBT放送のRTOCS®を基に編集・収録しています。

 

 

◆イギリスが国民投票でEU離脱を決定した背景と影響

#イギリスの離脱決定に対し、厳しい姿勢で臨むEU

6月23日、イギリスでEU離脱の是非を問う国民投票が実施され、イギリス国民はEUからの離脱を選択しました。残留派を主導していたキャメロン首相の後任を選ぶ与党・保守党の党首選挙を経て7月13日にテリーザ・メイ前内務大臣が新首相に就任しました。

一方、EUは6月28日に開いた首脳会談で、イギリスの内政混迷に配慮し、離脱をめぐる交渉を9月以降に先送りすることを容認しました。また、6月29日の首脳会談では、「欧州の単一市場に参加するには、労働者の移動の自由を認める必要がある」という原則を確認しました。これはEU離脱により移民の流入を抑えつつ、巨大市場との自由貿易を維持したいイギリスに対し、「いいとこ取り」を認めない立場を示したものです。

 

 

#離脱決定後、アイルランドのパスポートを取得したいイギリス人が殺到

また、アイルランドの外務省は6月27日、アイルランドのパスポートを取得するため、ロンドンのアイルランド総領事や北アイルランドの郵便局にイギリス人が押し寄せていると発表しました。通常200件程度だった1日の申請処理件数が4,000件を超え、郵便局では申請書が品切れになっているそうです。

スライド1

なぜこのようなことが起こるのか、背景を説明していきます。EUでは1993年発効のマーストリヒト条約において「EU市民」という概念を導入し、その市民権を定めています(図-1)。EU市民権の最も代表的なものは、「EU域内における移動・居住・就労の自由」です。この就労の自由には医療や教育などの公共サービスや一部の公務員も含まれます。他にも、「EU域内において医療・社会保障・社会扶助を受ける権利」「ストライキを行う権利」「欧州議会や居住国の市町村議会への参政権」などがあります。イギリスがEUから離脱するということは、イギリス国民がEU市民としてのこれらの権利を失うということです。

イギリスとアイルランドの結びつきという意味で言えば、イギリス人とアイルランド人の夫婦は多いですし、北アイルランドに住んでいる人の中には、アイルランドに出自を持つ人が多いのです。アイルランド生まれ、もしくは両親か祖父母のどちらかがアイルランド人であれば、イギリス人はアイルランドのパスポートを取得することができます。また、北アイルランドの住民は、アイルランドとイギリス、両方のパスポートを保有することが可能です。

アイルランドがEUを離脱することはまず考えられないので、国民投票の結果を受け、イギリスの離脱後もEUの恩恵を享受したいイギリス人が、2つの国のパスポートを持っておこうと動き始めているのです。

イギリスのEU離脱は政治や経済のみならず、多くのイギリス人に個人的なレベルでも影響を与えているのです。

 

 

#離脱賛成派が多いイングランドの中でも、ロンドン市民は離脱に反対

イギリスは正式名称を「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」といい、イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドの4つの王国の連合国家として成立、その後、1922年に南アイルランドが分離し現在に至っています(図-2)。各地域の人口を見ると、北アイルランドの人口が約185万人、ウェールズが約310万人、スコットランドは約537万人、イングランドが約5,478万人です。イングランド地域は人口の84%、GDPの87%を占めています。参考までに、首都ロンドンの人口が約854万人、GDPはイギリス全体の23%にあたる4,835億ドルです。

スライド2

地域ごとに今回の国民投票の結果を振り返ってみると、まずイングランド、ウェールズではEU離脱派が過半数を占めています。一方、北アイルランドやスコットランドは残留派が多いです。離脱派の多いイングランドの中でも、ロンドンとその周辺地域は残留派が多数という状況でした(図-3)。

スライド3

 

 

#EU離脱を支持したのは失業者、低所得層、年金世代

国民投票の結果を、年齢別に示したのが図-4のグラフです。若い世代ほど残留派が多く、高齢になるほど離脱派の割合が多くなっています。EU創設を定めたマーストリヒト条約発効の1993年に生まれた若者は現在20代前半で、彼らにとってはEU加盟国であるイギリスという状況が当たり前であり、離脱はEU域内における就業機会の逸失などマイナス面の影響が大きくなります。一方で、既に国内で社会的地位を築いている中・高齢層は、EU域内からの移民流入によるデメリットを感じている世代です。

スライド4

国民投票は数で勝る中・高齢層の民意が反映される結果となりましたが、この状況を知った高齢者の中には、若者の将来の選択肢を自分たちが狭めてしまったことを反省している人も少なくないと言われています。

イギリス産業界を見ると、EU離脱を支持している業界団体はありません。小規模企業連盟(FSB)が唯一、離脱派と残留派が拮抗しているだけで、他の業界団体は残留派が離脱派を大きく上回っています。また、図-5に示した世論調査の結果からも、EU加盟の恩恵を受けているのは大企業や金融業界であり、小規模企業や低所得層、年金世代が損をしているというイギリス国民の実感が分かります。この図で「負け組」とされる人々が、離脱派の中心になったのです。

スライド5

EUが直面する課題についてたずねると、イギリス国民の6割以上が移民問題を挙げています(図-6)。かつてのイギリスは安価な労働力の確保のために移民の受け入れに積極的でした。そのため、医療や教育、福祉や住宅などの面で移民には厚遇措置を採ってきたので、他国よりもイギリスを移民先に選ぶ人々が多かったのです。また、今日の国際社会でグローバルスタンダードとなっている言語は英語ですから、その点のハードルの低さも移民にとっては好都合でした。受け入れが進んだのちは、不法移民のコミュニティが犯罪の温床となったり、安価な労働力の流入がイギリス人の雇用を奪うことになったり、また近年ではイスラム系勢力によるテロが起こるなど、さまざまな問題が噴出してきています。

スライド6

 

 

 

◆EU加盟国から多大な経済的恩恵を受けてきたイギリス

#イギリスはEUの「いいとこ取り」をしてきた

欧州主要国の名目GDPの推移を見ると、1990年代後半にドイツ、フランス、イタリアが低迷するなか、イギリスは成長を続け、欧州債務危機以降も他国に比べ回復傾向が顕著です(図-7)。

スライド7

EUにおけるイギリスのプレゼンスを見ていくと、GDPではドイツに次いで2位、人口はフランスとほぼ同じですが、1人当たりGDPはイギリス、ドイツ、フランス、イタリアの中では最も大きくなっています(図-8)。

スライド8

欧州議会における議席数とEU拠出金を国ごとに比較してみると、議席数で言えば、イギリスはフランスより1人少ない第3位です。しかし、拠出金は第4位とイタリアより少なくなっています(図-9)。これらの数字は、EU内でのイギリスのしたたかさを物語っています。イギリスはEUの「いいとこ取り」をしようとしているのです。フランスは存在感が大きいように感じられますが、拠出金を多く出している割に、実際には劣勢にあることが分かります。

スライド9

このことが最もよく表れているのは、通貨です。イギリスはユーロを導入せず、ポンドを維持することで金融政策の独立性を保っています。これにより、不況に対してユーロ圏よりも柔軟な金融政策を打てるのです。

 

 

#EU加盟により、イギリスは対内投資を呼び込むことに成功した

EU主要国の産業別GDPを比較すると、イギリスは他国に比べ、製造業が少なく、金融・保険・不動産の割合が大きくなっています(図-10)。

また、イギリスの貿易相手国としては、輸出入共にEUの割合が圧倒的に大きいのです(図-11)。

スライド10

スライド11

図-12は非常に重要なグラフです。EU主要国の、直接投資額の推移を表しています。イギリスは対外直接投資が大変盛んです。大英帝国時代、7つの海を制したと言われるイギリスは、経済においても、伝統的に海外への投資を惜しみません。

しかし、同時に、イギリス国内に向かう対内直接投資も非常に大きく伸びています。他国と比較するとよく分かります。ドイツもフランスも対外直接投資に比べ対内直接投資は大きく下回っています。

つまりイギリスは、EUという単一市場の中でも英語圏でマネジメントがしやすく、規制緩和も進んでいるため、世界中から直接投資を呼び込むことに成功していたということです。対内直接投資という面においてはEUのメリットを最も享受してきたと言えます。海外に進出する一方で、外国からも資本が集まってくる。日本からも、イギリスに進出している企業が少なくありません。

スライド12

 

 

#EU内での「いいとこ取り」がイギリスを経済大国に押し上げた

イギリスがEUの前身であるECに加盟したのは1973年です。私は1970年代から1990年代前半にかけて日系企業の欧州進出を手伝う中で頻繁にイギリスを訪れていました。当時のイギリスは、大英帝国の遺産こそいたるところに残っているものの、社会保障制度の拡充や産業の国有化などの影響で国民の勤労意欲が低下し、経済は長い低迷期が続いていました。そのころは日本がまだ成長期だったこともあり、私は「イギリスは博物館になるつもりか」としばしば皮肉ったものです。

そのようなイギリスは1980年代の「サッチャー改革」を経て現在の繁栄を取り戻しますが、基本的にはEUという枠組みの中で、他の加盟国とつかず離れずの関係を維持したまま、前述の通り「いいとこ取り」を行ってきたことが、イギリス経済の復調を支えてきました。

日本企業にとっても、イギリスは魅力的な投資先でした。イギリスがEUに加盟していたことで、欧州へ進出する際も、まずはイギリスに拠点を置くという流れができたのです。日産自動車もイギリスに投資をした結果、大成功を収めています。

イギリスがEUから離脱するということは、このような恩恵をあえて手放し、1970年代以前の「博物館」に戻る道を選ぶことを意味するのです。

 

 

 

◆国民投票の決定を議会で反転させ、EU残留を選択すべき

#イギリス議会を説得し、EU残留を再決定すべき

このような状況の下、もし私がイギリス首相だったなら、国民投票の結果を議会で覆し、あえてEUに残留することを選択します。

今回の国民投票には、実は法的拘束力がありません。イギリスには「議会主権」という概念があり、最終決定権は議会にあるのです。イギリス国内では、離脱に投票したものの、結果が出てから初めてデメリットの大きさを知り、後悔しているという声が少なくないと聞きます。さらに現在のイギリス議会では、離脱派の根強い圧力が存在するとは言え、EU残留派が多数を占めています。

これらの事実を踏まえ、まず国民に対しては、「皆さんの意見はよく分かったが、熟慮の結果、時計の針を巻き戻すことは適切でないと判断した」と説明します。その上で、EU離脱がイギリス経済にとっていかにマイナスか、EUの中で名誉ある地位を維持することがどれほど重要かということをあらためて訴えて議会を説得し、EU残留を決定します。議会制民主主義に基づき、国民の選んだ代表者が決定を下したという方向に持っていくのです。

 

・・・・・・・・・・・<続きは書籍版で>

 

各ケースの”今”について、どのような課題を見い出し、あなたは何を導き出しますか?
ぜひこの書籍を通じて、”実践的な思考プロセス”を育ててください。

 

 

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