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【第3部】ポジティブ心理学から学んだ「幸福」であるということ。(修了生/熊野里枝子さん)

ピアニストから転身しグローバル製薬会社のプロジェクトマネージャーの仕事をされている熊野さん。Bond-BBT MBAでの学びを通して世界観がパワーアップしたそうです。下記の3つの質問を例に挙げ、主な学びを紹介されていました。

1)軸がぶれない人になるためには?
2)人は何のために生きているのか?
3)どうすればテロ、戦争や貧困がなくなるのか、自分にできることは?

前回は、3つのうちの1つ目についてご紹介いたしましたが、残りの2つについてはどのようなことを学ばれたのでしょうか?

▼これまでの記事はこちら
【第1部】なぜ、ピアニストからグローバル製薬会社のプロジェクトマネージャーに転身したのか?
【第2部】軸がぶれない人になるためには?

人は何のために生きているのか?

皆様はポジティブ心理学をご存知でしょうか?心理学のはじまり、現在も主流のものといえば、いわゆる精神的にまいってしまった時にどうするかにフォーカスをあてたものかと思います。分かり易くそちらをネガティブ心理学と呼ぶとすると、健康な精神状態の人がより幸せに生きるためにどうすればよいか、そこにフォーカスしたのがポジティブ心理学、別名「Happiness」です。これを提唱し世界に広めた一人がアメリカの心理学者マーティン・セリングマンであり、Bond-BBT MBAではValue Based Marketingとして学びました。あのハーバード大学院でもこの講座が一番人気として紹介されていました。

大学を出た後、エリートとして会社で思う存分出世し若くして富も栄光も得ている卒業生達ですら、「先生、まだ何かが物足りない、満たされない、もっと何か学ぶ必要があるのではないか」と悩み戻ってきてしまう姿を見て開講を決めたとのことです。

あなたは何のために働いていますか?何のために生きていますか?

講座はこの質問から始まります。社長になるため、お金をたくさんもらうため、お金もちになって豪邸やヨットを買うため、綺麗なパートナーとめぐりあい、優秀な子孫を残すため、様々な回答が出てくるわけですが、ではなぜ社長や金持ちになりたいのですか、と「なぜ?なぜ?」を突き詰めていくと「すべての人は等しく幸せになるために生きている」ということにたどり着きます。では、どのようにしたら「幸せ」は手に入るのか。その方法は道徳や宗教、特定の誰かの思い込みといったまゆつばものではなく、ポジティブ心理学として「科学的」に研究、証明されてきているのです。

セリングマンによる「幸せ」の定義、構成要素は3つです。易訳すると

①快楽とポジティブ感情を追求する快楽の人生(Pleasure)
②時間が停止するくらい夢中の体験を追求する人生(Engagement/Flow-第1部に掲載)
③意味の追求の人生、喜び意義のある生活(Meaningful)

彼は1,2番目も大切だが3つ目の「Meaningful life」を過ごすことが一番長期にわたり人の幸福度を上げていくもので重要だと言っています。

また、同じくアメリカの心理学者ディビット・リッケンの研究によると、幸福度のセットポイントは人によりおおよそ決まっていて、宝くじに当たったり不幸にして大切な誰かを失ったりした時に短期的に上下するにしても、また少しするとすぐにその人の幸福度のセットポイントに戻るという特徴を持っているとのことでした。そして、幸福度には方程式があると。

人の幸福度セットポイント
=①生まれもってのもの(50%)
+②環境:学歴、人種、年齢、収入、社会的地位など(10%)
+③幸せになるための自発的行為(40%)

この通り残念ながらその人の幸福度の半分は①の先天的、すなわち遺伝的なもので決められてしまいます。そして驚くべき事実は②の環境です。学歴、収入、社会的地位などはたったの10%しか幸福度に貢献しないのです。最終学歴、就職した会社、給料、出世のスピードなどその人の幸福度にはほとんど関係ないということで、ハーバードの出世頭達が学校に戻ってくるのもうなずけます。さて、そこで私たちがフォーカスしたいのは③幸せになるための自発的行為です。習慣的な考え方や気持ち、使う言葉や行動というものは、心がければ誰にでも実行可能であり、人を選ばず幸福度のセットポイントを上げることができるということです。

その自発的行為を研究発表したのが、ソニア・リュボミアスキー“The How of Happiness”でその中から、以下の8つの幸福度を上げるための行為を紹介します。

1)感謝を毎日3~5つ数え記録する。
2)やさしさを行動であらわす。(思いついたときと定期的な計画)
3)人生の喜びを感じる。
4)師に感謝する。
5)許すことを覚える。
6)友人や家族に時間とエネルギーを注ぐ。
7)自分の体をいたわる。
8)ストレスとつらい時期に対応する術を知る。

この習慣を持てば幸福度は確実に上がるということです。多すぎると思い出せないので私の中では4つです。①感謝すること、②利他の精神、③自愛の精神(自分を愛すること)、④足るを知ること。特に②の「利他の精神」、④の「足るを知る」、については大きな気づきがありましたのでもう少しだけ紹介させてください。

②の「利他」ですが、これは自分ではなく他人に利となることを心掛けるということ。私には人に善い行いをするのは「ありがとう」と感謝の言葉を聞き己の幸せ度をあげるものなのではないか、と心のどこかで思っていた部分がありました。ところが人に善い行いをすること自体がその人の幸福度をあげるものであり、「ありがとう」と言われるより「ありがとう」と言う方が幸福度を上げるということで、これは人間の遺伝子に深く刻みこまれているというのです。例えば二歳の子供が、誰かにお菓子をもらった時より、「どうぞ」とあげられた時の方が脳内で幸せを表す科学物質が多く分泌されているという実験結果が紹介されていました。

これはまたしても長年の疑問が解けた思いでした。例えば真冬の早朝、コンビニでカップラーメンを買いお湯を入れてこぼれないように公園まで持っていき、毛布にくるまって公園に寝ている人の横に置いて立ち去る時なのですが、あろうことか立ち去る時にウキウキしてしまうのです。このウキウキ感は一体どこからくるのか、もちろん喜んでくれるかなというウキウキなのかもしれませんが、時に不道徳とも思え、この感情の出所に疑問がありました。しかしこの講座を通して「利他の行為」を取ること事体が自分の幸福に直結することが人間の遺伝子に組み込まれていることを知りとても安心することができました。まさに「情けは人のためならず」。己のためと思えば日本人特有の気恥ずかしさも消えてもっと気軽に人助けが実践できそうです。

次に「④足るを知る」ということ、これは前述セリングマンの幸せの3つの構成要素の最重要要素「3)人生の喜びを感じる- Meaning Lifeを過ごすこと」と同じことです。皆さんは今の人生の良さを十分に味わいながら今を生きていますでしょうか?私にとってこれはもっとも意識が欠けていた部分で多くの幸せを逃していたことに気が付けたのは本当によいことでした。

平日の夜や毎週末も家族や子ども達のことは夫に任せきりにして自分はMBAの勉強に必死になっていたのです。未来にフォーカスをあて、今ある幸せをかみしめることをすっかり忘れていました。今日、今ある幸せを存分に味わいながら毎日を過ごすこと、これは自分をかなりHappyにしてくれると思います(笑)。

面白い発見もありました。それは私の夫が特別な努力を要すことがない、幸福度のセットポイントが遺伝的に高い人なのではと気が付いたことです。MBAなどにはさっぱり興味がなく、私が歯をくいしばりながら必死にレポートを仕上げていると、わきでせっせと家事、育児をこなしながら(ちなみにこれは利他の行為の重要ポイント「まめに動く」ことに当たります)、「えらいなぁーとは思うけど、何でそこまでするの?これ以上何が欲しいの?もう充分じゃない?」と本当に不思議そうに言うのです。この人には向上心というものはないのか?などと一瞬でも思っていた自分が恥ずかしいです。このポジティブ心理学に出会ったことで夫の素晴らしさに気が付くことができたのも大きな収穫となりました。

この経験から、将来より幸せになれるんじゃないか、と働きながら大学院に通ったり徹夜でレポートを書いたりするようなタイプの人より、「この人は能天気だなー」というタイプの人の方が、もしかすると生まれながらに幸せのセットポイントが高い、または幸せに生きる術を知っていて人生の目的を高いレベルで達成しながら生きているのではないかと思うようになりました。今夜はMBAホルダーやMBAを検討されている方が多く集まってくださっている中、皮肉のようになり恐縮ですが、この特徴は我々が敢えて意識すべきポイントなのかもしれないと思いシェアさせていただきました。

どうすればテロ、戦争や貧困がなくなるのか?自分に何ができるのか?

世界では各地でテロや戦争が起きていて人々が殺し合いをしていることに心が痛みます。そして自分や自分の家族もいつ巻き込まれるか分からない状況には脅威を感じます。今自分ができることは何なのでしょうか?ここは皆さんにも是非伺いたいところです。ジャーナリストやボランティアとして戦地に赴く、大きな寄付をする、もちろん賞賛に値すると思いますが、多くの人に決断できることではありません。では、今の私に何ができるのか?

「可能なかぎり自分の幸福度を上げること、そしてよりたくさんの幸せの連鎖を生むこと」というのが今の私の結論です。

「幸福は無限の連鎖を生む」という研究結果が出ています。ある研究では一人の幸福な人間は約千人への幸福の連鎖を生むと言っています。逆に幸福度の低い人間には周りに幸福をもたらすことは難しいということです。「感謝すること」「利他の行為」だけをとってみても「幸福」は連鎖するということが容易に想像できますね。一人の小さな幸福創造により家族、友人、勤め先の同僚の幸福感があがる、経営者の小さな幸福創造は、やがては従業員、顧客、取引先、株主、すべてのステークホルダーに連鎖していくということです。

あわせて、幸福度は相対的に決められるという研究結果も紹介します。貧富の差は幸福度を著しく下げるという結果が出ています。貧富の差は少ないに越したことはありませんが、皆無にすることはできません。そのような環境の中では、富める者が貧困層に富を分配していくことが重要だということです。貧富の差を縮めていく活動で社会全体の幸福度が上がり、暖かい社会の実現ができた時にテロや戦争が減っていくのだと信じています。

そこで私は「利他の行為」としてこの「富の分配」に少しでも協力することで自分の幸福度をあげていきたいと思っています。今日のこの講演会は、みなさんから頂いた参加費500円を全額赤十字に寄付することを講演者全員で決めていますので、皆さんも本日、富の分配活動へ参加することができました。「利他の行為」で幸福度がアップしているはずですので是非幸福をかみしめて帰ってください。

最後になりますが、私たちはどれくらい富んでいるのかご存知でしょうか。世界の人口ピラミッドで年収2万ドル、ざっくり200万円をもらっている人は全世界人口のたったの3%という数字が紹介されていました(当時)。つまり殆どの日本人家庭は世界の中では超リッチ層ということになります。年収3千ドル(ざっくり30万円)以下の人が世界にはまだ7割もいるのです。

様々な講座の中でその7割の方々をターゲットにしているビジネス、BOP (Base Of Pyramid)ビジネスについて学びました。途上国のBOP層にとって有益な製品・サービスを提供することで、その国の生活水準の向上に貢献しつつ、企業の発展もできる持続的なビジネスで、グローバル競争の激化状態にある先進国ビジネスの救世主となりえるビジネスです。

これをヒントに考えてはワクワクしているのが薬のBOPビジネスです。薬がまだ普及していない国や地域で痛み止め、かゆみ止め、風邪薬、化膿止めといった昔から家に置いているような薬を小分け包装にして、10円、20円で田舎のパパママショップにぶら下げて売るようなビジネスです。このような仕事に関わることができれば、いわゆる貧困層の近くに寄り添った形での幸せの連鎖を起こすことができますし、富の分配もより効果的にでき、私自身もより幸福な人生を送ることができるのではないかと。

今すぐとは考えていません。あくまで家族で過ごす今の時間を大切に、今の幸せにフォーカスをあてながら将来をゆっくり夢見ることにします。

異色のキャリアから見えてきたグローバルで力を発揮するために磨き上げるべき能力とは?(Bond-BBT MBA事務局より)

今回の記事はいかがでしたでしょうか?すべての根源を突き詰めていくと、「幸福」にたどり着くのかもしれません。皆様にとって自分が、そしてまわりが幸せになるためにできることは何でしょうか?これを機に、一度考えてみるとよいかもしれませんね。

さて、連載の最後となる次回は、異色のキャリアや経験を積んでこられたからこそ見えてきた、熊野さんがお考えになるグローバルに活躍するために必要な力をご紹介したいと思います。

▼続きはこちら
【第4部】グローバルで力を発揮するために磨き上げるべき能力とは?

▼これまでの記事はこちら
【第1部】なぜ、ピアニストからグローバル製薬会社のプロジェクトマネージャーに転身したのか?
【第2部】軸がぶれない人になるためには?

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