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IPO前 [あくまでも予実管理はしっかりと!]

4月から「創業前~IPO後に大切にしておきたいこと」にフォーカスして連載開始した、
Bond-BBT MBAプログラム22期生の福田徹さんによる連載第10回。
今回は、株式上場の審査項目で、最も重要な項目のひとつである予実管理についてお話をします。

予実管理とは何でしょうか?
予実管理とは、その会社の予算と実績があっているか、予算と実績の数値がブレていっていないかきちんと管理をしようということです。ご存知の通り、企業の社長には色々なタイプの方がいますね。ほらを吹いて大きな営業目標を立てる社長。また、非常に保守的で、いつも確実な数値をもとにして予算を立てる社長。どちらも決して悪いというわけではありません。基本的には、上場すると、業績予想は自社で発表するので、その予想が大きく外れて投資家に迷惑をかけることがないか、ということが大きなポイントとなります。上場していても多くの会社では、社長の腹積もりをしている予算と、公表している業績予想は異なっています。しかしながら、IPOの審査では、予実管理はかなり厳密に審査されるので、本気で考えていかないといけません。予実管理は、月次で管理され、大手証券会社の審査では、ほぼその額の通り、もしくは上へのブレが3%くらいの範囲内で推移しないと上場できません。そうでないと、予実が合うまで毎月毎月上場日が伸びていくのです。従って、社長も従業員も必死に予算を考え、その数値になるように必死に頑張ります。数値は売上高と、利益が基本となります。特に予実管理で大きくぶれてしまうのは不動産業です。たった1件の売上が、一日ずれるだけで一カ月の売上高、利益の額が大きく変わってきます。つまり、どれだけ先が読めるが勝負です。上場企業は1年先の業績予想を出すので、IPO前でも1年先までの月次予算を立てなければなりません。これは至難の業です。京セラの創業者の稲盛氏も、上場前の審査で初めて中期計画というものを立てたとおっしゃっていました。稲盛氏でも半年先までしか受注動向は読めないのです。正直言って私もその通りだと思います。私も製造業のIPOにはかかわったことがありますが、業績予想は難しい。受注見込みがなかなかたてられない。機械受注統計が内閣府から出ていて、機械メーカーの景気動向をその数値の変動で考えてしまいがちですが、それはあくまで平均です。個別企業は、なかなかその通りの動きにはならないものです。

最近はますます予実管理は非常に重要になってきています。なぜでしょうか?
それは、IPOをした企業が、上場時に発表した業績予想がしばらくすると大きく外れることが多くなったからです。そのためその企業の予実管理能力が問われたり、証券会社の審査がしっかり行われていなかったのではないかというように証券会社の問題になったりします。東芝のように、すでに上場している企業の決算が大きく狂うのは論外ですが、最近で最も問題になったのはあるソーシャルゲームの会社でした。今でこそ業績は好調に転じていますが、2014年には黒字予想でIPOしましたがすぐに赤字予想の業績予想を発表しました。取引所のCEOも「投資家の信頼を損ないかねない最近のIPOは看過できない。3か月で業績予想を黒字から赤字にしてしまうなんて、経営者としてありえない」と発言していました。それ以降、予実管理は厳しく審査されています。

さて、予実管理がきちんとできていないと何が起こるでしょうか?
そういった会社が上場するとインサイダー取引が発生してしまう確率が高くなります。基本的には業績予想で、売上高が10%以上ずれたり、利益が30%以上ずれたりすると上場企業は業績予想の修正を発表しないといけません。株価は業績と連動することが多いため、業績予想から大きくブレ、しかもそのブレを公表していないと、そのことが未公表の重要事実となり、その事実を知った人がその会社の株式を売買するとインサイダー取引になるからです。インサイダー取引は懲役も罰金も課徴金もある重大な違法行為です。防ぐためにはタイムリーディスクロージャをしなければなりません。つまりブレが出てきたら、なるべく早く公表することです。インサイダー情報の温床を作らないことです。参考までに、米国の上場企業は業績予想も中期経営計画も通常は公表しません。業績予想は証券アナリストの仕事であり、もし業績予想が外れた場合、その上場企業が損害賠償を請求されるかもしれない、ということがその理由です。日本では、非財務情報としては中期経営計画を発表することがIR活動で重要だと言われていることと比べれば大きな違いですね。

結論としては、IPO前には、予実管理はしっかりとおこない、もし予想がブレてきたら、すぐにそのブレについて公表できるような体制作りをしておかなければならないということになります。

講師プロフィール

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福田 徹 氏
株式会社福田総合研究所 代表取締役社長
1984年3月早稲田大学卒業、豪州Bond大学大学院MBA取得。野村證券、ソニー生命(MDRT)を経て、2005年福田総合研究所設立。その間、証券英国現地法人にて、サッチャー政権の英国ビッグバン対応業務を行う。國學院大學で、財務分析、証券分析、関東学院大学でFP、武蔵大学で金融数学を講義、経済学部金融学科でファイナンス、ケーススタディーのゼミを担当。豪州のマードック大学ではマーケティングの客員講師。上場会社の社外取締役と社外監査役を兼務。中小企業から1部上場企業まで、各社のテーマに応じてコンサルティングを行っている。大手証券、地銀、地銀協、生保など多くの企業で研修も実施。

主な著書:「なぜ、会社の資金繰りが悪くなったのか?」(税務経理協会)、CFO協会のIRテキストブック監修、「上場企業、上場準備企業のIR担当者向けテキスト」(電子書籍)、『「株式上場」が頭をよぎった経営者が読むIPO入門』(Amazon Kindle)。論文「証券アナリストとIRオフィサーの関係性について」。

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