顧客は製品・サービスを買っているのか?
【ドラッカーの格言から学ぶマーケティング入門 第4回】

顧客は製品・サービスを買っているのか?【ドラッカーの格言から学ぶマーケティング入門 第4回】
4月からスタートいたしました、Bond-BBT MBAプログラム6期生の早嶋聡史さんによるオンライン勉強会「マーケティング入門」。第4回目は「顧客は製品・サービスを買っているのか?」をテーマに取り上げたいと思います。

世の中には、ありとあらゆる製品やサービスが満ち溢れています。トレンドの変化なども速く、顧客が購入・利用する製品やサービスも時を経るにつれて次々と移りゆくもの。日々、様々な栄枯盛衰が繰り広げられています。

しかし、そもそも顧客はなぜその製品やサービスを購入・利用するのでしょうか?今回はその「そもそも」について掘り下げていきます。

▼これまでの記事はこちら
第1回:顧客創造のために不可欠な「マーケティング」と「イノベーション」。
第2回:部分最適に陥るな!マーケティングプロセスをまず理解する。
第3回:企業の成長も衰退も定義次第。

顧客にとっての価値は何か?

ドラッカーによる「経営者に贈る5つの質問」の3つ目の問いに、「顧客にとっての価値は何か?」というものがあります。顧客価値の正しい理解は、マーケティング活動を成功に導くカギ。そのため、企業はSTP分析を通じて事業の対象とする顧客を特定します。顧客を特定することではじめて顧客が望むことを知り、分析が可能になるからです。

マーケティングでは顧客価値を理解するために様々な分析手法がありますが、意外と忘れがちなのが「直接顧客に声を聴く」ことです。このことについて、ドラッカーは次のように指摘しています。

顧客と市場を知っているのはただ一人、顧客本人である。したがって顧客に聞き、顧客を見、顧客の行動を理解して、はじめて、顧客とは誰であり、何を行い、いかに買い、いかに使い、何を期待し、何に価値を見いだしているかを知ることができる。(創造する経営者)

マーケティング活動を行っていると分析に集中するあまりに勝手に顧客の価値を憶測することがあります。しかし、実際に現場を歩き、顧客の声を聴いていくと、顧客は提供される製品やサービスに対して企業が憶測によって考えた価値ではなく、自分なりの価値を感じて購買に至っていることが多いことに気づきます。

ドリルを買う人が欲しいのは「穴」である。

1968年に出版されたT・レビットの著書「マーケティング発想法」の冒頭に「ドリルを買う人が欲しいのは「穴」である」というエピソードがあります。メーカーがどんなに力説してドリルの性能を説明したところで、購買する人は興味がありません。なぜなら、自分が作る工作に適用するか否かを知りたいからです。

近年、Webデザインで起業する人が増えているようです。そして彼らの多くは、自分たちの作品はいかにセンスが良く見栄えが良いかを説明します。しかし、企業が欲しいのはWebの見た目よりも、企業への取り合わせが増え、Webからの注文が増えることを望んでいるのではないでしょうか

ドリルの穴に相当する事例が昔から絶えないのは提供側が相変わらず顧客の価値をあまり考えずにプロダクトアウトになっているからでしょう。また、提供側は部分最適に陥り、顧客がどのような困りごとを持っているのかといった視点に立てていないためではないでしょうか。

顧客の声を聴き、よく顧客を見ることで初めてわかることは実に多い。

近年はエスノグラフィーという人類学の手法を応用した手法が注目されています。

エスノグラフィーとは、社会学や文化人類学で行われるインタビューや観察によるフィールドワークと調査記録の手法です。特徴は、事前に仮説を立てずに定性調査を重ねて豊富な情報から仮説を見つけ出すこと。従来型の消費者調査が仮説検証型とすれば、エスノグラフィーは仮説発見型といえるでしょう。

P&Gは社員が数日間、消費者の家族と共に過ごしてあたかも人類学者のように消費者を観察するプログラム、Livin’ it(リビン・イット)と、小売店を手伝いながら買い物客が何を買って、何を買わないかを観察するプログラムWorkin’ it(ワーキン・イット)を実施しました。

実際にこれらの手法から生まれた商品にダウニー・シングル・リンスがあります。以前、メキシコでは住居用の洗剤であったダウニーのシェアが伸び悩んでいました。そこでLivin’ itとWorkin’ itの両方の観察プログラムを実施しました。

そこで分かったことは、通常の洗濯には大量の水を必要とするが、その水を用意することがその地域ではとても大変な労力であったということでした。メキシコの低所得者であった対象消費者は、洗濯の際に大量の水を運ぶという重労働をしなくてはならなかったのです。そこでダウニー・シングル・リンスはすすぎの回数を1回に減らす商品として大ヒットを飛ばしたのです。

顧客の価値を知るための取り組みにITを活用した手法も注目されています。ビックデータやアナリティクスなどが続出している昨今ですが、本質はドラッカーの教えと同じです。自社製品に対する顧客の期待や製品の使用状況を正確に把握することで顧客価値を理解することが目的です。

ドラッカーの時代にはネットワーク環境や各種ハイテク機器は無かったので、アナログ的なアプローチでしか顧客の声を聴く手段はありませんでした。しかし、近年はデジタルを駆使した取り組みも盛んです。近年のMBAでは本質的な価値を知るというゴールは同じでも、そのための手法は多種多様になってきています。そのような中、マーケターの思惑が独り歩きした場合は、ドラッカーの教えのようにサンプル数1であっても実際の顧客に声を聴くことが重要だと思います。

次の回は、マーケティング活動の分析の要になる環境分析について理解を深めていきます。

講師プロフィール

hayasima

早嶋 聡史 氏
株式会社ビズ・ナビ&カンパニー 代表取締役
株式会社ビザイン 代表取締役
一般社団法人 日本M&Aアドバイザー協会 理事

国立九州工業大学 情報工学部 機械システム工学科 卒業、オーストラリア ボンド大学 大学院 経営学修士課程(MBA) 修了。
横河電機株式会社において、R&D(研究開発部門)、海外マーケティングを経験後、2005年11月に株式会社ビズ・ナビ&カンパニーを設立し、マーケティング担当取締役に就任。2012年4月に代表取締役に就任。2007年株式会社ビザインを取締役パートナーとして設立、2009年代表取締役就任。中小企業の友好的M&Aへの理解・普及活動、M&Aアドバイザー養成を手がける。専門分野は、ビジネス統計分析、マーケティング戦略とコーポレートファイナンス。

いかに真摯に顧客に向き合うか。(Bond-BBT MBA事務局より)

今回の記事はいかがでしたでしょうか?顧客にとっての価値を見出し、提供し続けていくこと。言葉で言うのは簡単かもしれませんが、実行し続けることは意外と難しいもの。「大切なのはわかっている。でも、日々の業務が忙しくてなかなかできない…。」実際、そのような方が多いのではないかと思われます。

分析手法が増え続けていることで顧客を理解することの難しさを感じる方がなおさら増えているようにも感じられますが、まずは身近な顧客などから話を聞いてみる。そのシンプルな取り組みの繰り返しが、顧客理解の核心に迫っていくきっかけになるのではないでしょうか。

シンプルでもあり、難しくもある顧客を知ること。小さなことからでも真摯に顧客と向き合い続けることで、成し遂げていきたいですね。本プログラムの事務局も、引き続き精進し続けていきたいと思います。

▼これまでの記事はこちら
第1回:顧客創造のために不可欠な「マーケティング」と「イノベーション」。
第2回:部分最適に陥るな!マーケティングプロセスをまず理解する。
第3回:企業の成長も衰退も定義次第。

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