close

もしも、あなたが「Airbnb日本法人社長」ならば【RTOCS®】

「RTOCS®(Real Time Online Case Study)」をご存知でしょうか?「RTOCS®」とは、BOND-BBT MBAプログラムをBOND大学と共同で運営する株式会社ビジネス・ブレークスルーが独自に開発した教育メソッドです。国内外の経営者、リーダーが取り組んでいる現在進行形の課題をケースとして取り上げ、「自分がその組織のリーダーであればどのような決断を下すか」を経営者、リーダーの視点で考察し、「意思決定」に至る力を鍛錬。前例のない予測不可能な現代社会において時代の流れを読み取り、進むべき道を見極め、切り拓くことのできるビジネスリーダーの育成を目指しています。

本プログラムでは大前研一が担当する「戦略とイノベーション Part A(Strategy and Innovation Part A)」で取り組む「RTOCS®」。一部のケースが書籍化され、Amazon等で販売されています。

今回は、書籍版「RTOCS®」で取り上げられるケースの一部をご紹介していきたいと思います。1つのケースにおいても解説をすべてお見せすることができないのが残念ではありますが、「RTOCS®」の一端を垣間見ることができるのではないでしょうか。お時間があるときにぜひご覧ください。

今回ご紹介するケースは、Airbnb日本法人です。

あなたがAirbnb日本法人社長ならば、東京オリンピックを控えるなかでどのように既存の法規制に対処して成長戦略を描くか?

【BBT-Analyze】大前研一はこう考える~もしも私がAirbnb日本法人の社長だったら~

2008年創業のAirbnb(エアビーアンドビー)は、個人が所有する住宅や空き部屋と旅行者をマッチングさせる民泊仲介サービスを展開。物件の登録件数は190カ国、200万件を超え、世界中に利用者が広がっている。2014年には日本法人も立ち上がり、国内の登録件数も急速に拡大。しかしながら、同社のビジネスモデルは既存の法規制に抵触する可能性があり、国の法整備は間に合っていないのが現状だ。今後は、自治体やホテル・旅館事業者といった関係者をいかに巻き込み、サービスの浸透を図るかが課題となっている。

◆旅行業界に衝撃を与えた新サービス

#世界190カ国で展開、巨大市場に成長

Airbnbは個人所有の住宅や空き部屋を宿泊用途で利用する民泊仲介・予約サイトを運営する会社です(図1)。2008年にサンフランシスコで設立され、2014年5月には日本法人も立ち上がりました。現在、物件の登録件数は190カ国、34万都市で約200万件、日本国内の登録件数は約1万6,000件とここ数年で飛躍的に伸びています。

スライド1

サービスの利用方法はシンプルで、空き家や空き部屋を貸したいホスト(個人や代行業者)は物件をAirbnbに登録、宿泊料金は自由に設定できます。ゲスト(旅行者など)は宿泊したい物件をサイト上で予約し、Airbnbを通じて宿泊料金を支払うため、両者の間で金銭のやりとりは発生しません(図2)。Airbnbはホスト側から決済代行手数料として宿泊料金の3%、ゲスト側から斡旋料として宿泊料金の6〜12%を徴収、計9〜15%の仲介手数料が収入になります。

スライド2

#企業価値3.1兆円、大手ホテルグループを上回る

創業から3年ほどは売上がほとんどなく苦戦していたAirbnbですが、2013年には売上が約300億円、2014年は約500億円、そして2015年には1,000億円を超える見込みで、現在急成長を続けています(図3)。

[図4/非上場ベンチャーの企業価値ランキング]を見ると、Airbnbは3.1兆円で3位にランクインしています。トップは、スマートフォンアプリを用いたタクシー配車サービスUBER[i](6.1兆円)、2位には中国の格安スマートフォンXiaomi[ii](5.5兆円)がつけています。

[i] UBER:ウーバー・テクノロジーズが運営する自動車配車ウェブサイト及びアプリ。現在は世界約60カ国で展開している。
[ii] Xiaomi:2010年創業の中国北京市に本社を置く通信機器・ソフトウェアメーカー。

スライド3

スライド4

Airbnbの企業価値の大きさは、[図5/主要ホテルグループの時価総額]からも見てとれます。ヒルトン、マリオット、スターウッドといった世界の大手ホテルグループの時価総額はいずれもAirbnbの企業価値を下回っており、同社は創業からわずか7年で歴史あるホテルグループの時価総額を追い越したということになります。

スライド5

◆アイドルエコノミー急拡大の裏に潜む問題とは

#世界が注目するUBER、各国でトラブルが多発

モノが売れない時代に、空いている資産や時間を活用し、お金に換える経営戦略として「アイドルエコノミー(シェアリングエコノミー)」が急拡大していますが、多くの事例において法的整備が追いついていないのが現状です。

ここで、スマートフォンアプリでタクシー配車サービスを行うUBERを例に、アイドルエコノミーの問題点について考えてみましょう(図6)。UBER自身は一般のタクシー会社と異なり、客を乗せて運賃を得るためのライセンスを持っていません。また、営業ライセンスを持たないドライバーとも契約を交わしているため、個人の自家用車やレンタカーを用いてドライバーとして参入してくる人が後を絶たず、道路運送法上問題となっています。

また、サービス品質の管理責任、ドライバーの管理責任、車両の調達・管理責任、実車中に起きた事故の賠償責任、タクシーを走らせながら乗客を探す、いわゆる流し中に起きた事故の賠償責任など、これらすべてにおいて責任の所在がはっきりしていません。

このように、法的根拠や安全管理責任が曖昧なまま営業を続けた結果、提訴や営業停止処分を受けるなど、各国でさまざまな問題に直面しています。

スライド6

#Airbnbは法律をクリアしているのか

先ほどのUBERの事例と同様に、Airbnbなどの民泊についても明確な法整備が進んでおらず、同様の問題を抱えています(図7)。

国内では旅館業法において、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業のことを旅館業と定義しています。旅館業を営むのであれば、自治体から営業許可を受ける必要があり、そのためには部屋の広さや宿泊者名簿の管理、消防や衛生面など、宿泊施設としての要件を満たさなければなりません。自宅を開放して継続的に宿泊サービスを提供する場合も、この旅館業法に抵触しますが、個人物件での宿泊サービスでは旅館業法の定める各種の基準をクリアすることが極めて困難なのです。

また、騒音などの近隣住民とのトラブル、衛生管理上のトラブル、防犯上のトラブル、寝タバコなど防災上のトラブルなど、各種トラブルに対する管理責任の所在が不明な点も問題視されており、UBER同様、法的根拠、管理責任の曖昧さが課題として残されています。

スライド7

#米国に学ぶ合法化への道筋

米国では一部の都市で、Airbnbのような民泊を宿泊税の課税や日数制限付きで合法化する動きがあります(図8)。

例えば、ペンシルバニア州フィラデルフィアでは短期レンタルを合法化し、宿泊施設と同様に8.5%を課税、ただし連続貸出は30日以内という制限を設けています。オレゴン州ポートランドでは、宿泊税の課税のほか、貸出前に許可申請料180ドルの支払い、物件検査や近隣への通知を義務化しています。また、カリフォルニア州サンフランシスコでは宿泊税14%を課税、カリフォルニア州サンタモニカでは、ホストの常駐を義務化し、ライセンス登録、宿泊税14%の課税を行い、フロリダ州マイアミでは、マイアミビーチ周辺の特定エリアにおいては営業を禁止しています。このように米国では、自治体と業界が課税によって折り合いをつけ、管理責任については合法化に踏み切った自治体側との協議により、一つ一つ明確化していくという方向で規制緩和が進んでいます。

スライド8

◆Airbnb、日本市場開拓の糸口とは

#国内でも民泊緩和の兆し

一方、日本では特定の地域に限って規制改革をする国家戦略特区法により、特定区域で旅館業法の適用を除外する動きがあります(図9)。規制緩和条件には、対象は外国人利用者、7〜10日の範囲で使用すること、部屋の床面積は原則25平方メートル以上、出入口や窓に鍵をかけられること、部屋と部屋、廊下との隔たりが壁造りであること、などが条件として挙げられています。さらに、適当な換気・採光・照明・防湿・排水・冷暖房があること、台所・浴室・便所・洗面設備があること、清潔な部屋を提供すること、外国語での案内や緊急時の情報提供を行うことなど、中央政府が上意下達で一律的な細かい条件を設けています。

スライド9

しかし、民泊を拡大するには米国の事例のように各自治体に裁量を持たせ、各地の事情に沿った形でアイデアを出し合いながら、それらを吸い上げる形で最低限の基本的なルールを中央が法制化していく方がよいと考えます。これは特区にする必要はなく、自治体ごとの裁量で取り組むべきです。

・・・

<続きは書籍版で>

各ケースの”今”について、どうのような課題を見い出し、あなたは何を導き出しますか?(BOND-BBT MBA事務局より)今回のケースをご覧になられて、皆様いかがでしたでしょうか?書籍からの転載ということもあり、最後の結論についてこの場でご紹介することができず心苦しいところではございますが、「RTOCS®」に取り組む際、私どもは「皆様ならどうするか?」という点を大切にしております。

大前研一が述べている解説が正解というわけではございません。あくまでも、論拠に基づいて考え抜いた“ひとつの解”です。その思考プロセスから考え方や視点などを学び、ご自身でその時々の“最適解”を導き出せる力を鍛えていっていただきたいと考えております。

上記のプロセスをご覧いただき、皆様でしたら最終的にどのような結論を導かれますでしょうか。ぜひ一度、お時間をとって考えてみてください。

そして、ご自身の考えと大前の考えを比較してさらに学びを深めたいとお考えの方は、よろしければぜひ書籍をご購入いただければと存じます。

BOND-BBT MBA TOPへ